優秀なくのたま劣等生！其の一

▽ ページ43

それにしても、男が苦手にしては喜八郎との距離が近くないか？ 本人も後で自覚してパニックになっていたけど、無意識にあんなに近づくことができるんだ。なかなか変わっている。

　潮江先輩同様、立花先輩にも気に入られたようだった。実際に女の子らしく化粧を見事にしていた。三郎が素直に感嘆しているくらいなのだから、やっぱり上手なんだと思う。今度他の五年生の酷い女装を見てもらいたい。

　火薬委員会は人が少ないから、兵助はかなりAちゃんを楽しみにしていた。俺も五年生になってからは兵助が大変そうだと気にしていて、Aちゃんには出来れば火薬委員会に入ってほしいと思う。兵助は真面目だから大丈夫だと思って、火薬庫では特にちゃんと二人を見ていなかった。けれど、あんなことになるなんて。

・・・

「A、A！」

「兵助、どうした！？」

　火薬庫の奥で突然兵助の声がした。只事ではないと、俺たちが慌てて駆けつけると、兵助がぐったりしたAちゃんを抱えて必死に名前を呼んでいた。兵助の顔は真っ青だ。

「…………気を失っているだけだな。一体何があったんだ？」

　三郎が脈を確認して兵助を見やる。申し訳なさげな兵助と一緒に近くで様子を見ていた三郎次も説明してくれた。なになに、緊張をほぐしてやろうと豆腐の話をし、思ったよりもAちゃんが豆腐の話に乗り気で、嬉しくてつい気が昂って、肩を掴んだら気絶した…………？

「耐性が無いにも程があるなぁ」

　俺は思わず言った。三郎が最初に近づいた時も腰を抜かして怯えていたが、あれは三郎だからだと思っていた。まさか兵助でもこんなことになるなんて。

「とりあえず、医務室に連れて行きましょう」

　庄左エ門が言う。

「分かった、俺が…………」

「兵助はここにいろ。Aちゃんが見たらまたこうなるかもしれないし」

　いきなり豆腐の話をされるなんて、この子も可哀想に。俺だったら暫く兵助の顔は見たくない。
　Aちゃんの顔にこっそり手を伸ばすと、三郎に掴まれた。

「何やってるんだ？」

「えー、お面取ったら楽になると思ったんだけど」

「無理矢理取ることはないだろう。後で怒られるぞ」

　何でこう言う時に止めるのが三郎なんだよ。どっちかと言うと率先してやるのがお前だろう。と思ったが、三郎も素顔を隠している以上、自分がされて嫌なことはしないらしい。こりゃ参った。

▽→←学級委員長の回想の段

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す