第97話 ページ50
タグはなんの引っかかりもなく、スルッとチェーンを通った。
「ピッタリ」
そのタグは古い作りの物だったので、そこらに売っているチェーンだと太くて通らなかった。
だから新しいものに出来なかったのだが、これはジャストサイズだ。
「どうしたの、これ」
「探し回って、一番細い物を買ったんだ。あの日、これを渡したかった。君は形に残る特別な物は嫌がるだろうからな」
「…そうね。形の残る物は、嫌」
「…」
「このネックレスだってそう。父が残さなかったら私は名前に拘らなかった。でも」
Aはタグを撫でる。
「悪くないかな」
エルヴィンはまた、テーブル越しにAの手に触れた。
「正式に破談になった」
「…え」
「俺が拘束された時に、向こうの親がね。釈放された後にあの子が破談の取り消しを申し出たみたいだが、元々向こうの親も俺との関係をどこかで終わらせようとしてくれていたから、これで完全に終わった」
エルヴィンはAの手の甲にツツ、と指を這わせる。
「俺がこっちを片付けたら、君は応えてくれるんだろう?」
途端にAがテーブルの上から自分の手を引き抜く。
…つもりが、エルヴィンの手がそれを阻止するように強く握った。
Aは耳が真っ赤だ。
「A」
名前を呼ぶが返事をしてくれない。
そっぽを向いてしまった。
エルヴィンは立ち上がると、テーブルに手をついてそっぽを向いたAの耳たぶを軽く噛む。
「ぅわっ!何!」
Aは思わず耳を押さえてエルヴィンを見た。
夜でキャンドルが立ててあるだけの部屋なのに分かるくらい、Aは真っ赤になっている。
ここまで恥ずかしそうにしているAは、長い付き合いで初めて見た。
平然と服を脱いで、どんな体位も好奇心を満たすように試すのに、今はこれだけで口元がこわばっている。
Aが間近で見たエルヴィンは意地悪そうに微笑んでこちらを見つめている。
長身の彼は、テーブル越しでもAの目の前にまで迫っていた。
「…なんだろ。私に余裕がない。…帰りたい」
「今日は怒って帰ったりしなんだろう?」
「こういう事は含まれてないのよ、あれは!なんか変、私」
「勿体ないな。とてもかわいいのに」
顔を近づけてくるエルヴィンに、Aも自然と目を閉じてそれを受け入れた。
何度も角度を変えて口づけてきたエルヴィンは、長いキスのあと顔を離す。
「ベッドに行こうか」
Aには拒否できなかった。
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作者名:ララ | 作成日時:2021年5月7日 20時