第83話 ページ36
コンコン、と病室の戸をノックする。
「はい」
返事がした。
「A・クロフトです。入ります」
「Aか?待…」
何か言いかけたエルヴィンだが、Aは構わず戸を開けた。
そこには半裸のエルヴィンに服を着せようとしている状態の、あのお嬢様がいた。
気まずそうにこちらを見るエルヴィン。
振り向いたお嬢様は、Aを見るとニコッと笑いかけた。
「ごきげんよう」
「…ごきげんよう。お取込み中でしたか?」
「え⁉︎あ、違うんです。お着替えを手伝っていて」
お嬢様は困ったように頬に手を添えた。
「…へぇ」
感情がない声で返事をしたAは、エルヴィンに近づくと封筒を差し出す。
「ピクシス指令からです」
「あ、ああ。ありがとう」
封筒に手を触れたエルヴィンだったが、封筒を離さないAを不審に思い顔を上げた。
彼女はお嬢様からは見えない角度でエルヴィンをジッと見ている。
その目は恐ろしく鋭い。
滅茶苦茶機嫌が悪い時のそれだ。
エルヴィンが咳ばらいをすると、Aは封筒から手を放す。
エルヴィンはお嬢様を見て、「仕事の報告なので、聞かれたくないから外に出てほしい」と伝えて彼女を追い出した。
お嬢様が出て行った部屋で、Aは扉の前に立って腰に手を当てて息をつく。
「身の回りの事をしてくれるなんて、貴族にしては珍しいわね」
「いや、今のが初めてだ。いきなりの事で驚いたよ」
「花嫁修業でもしてるんじゃないの?」
「…A、やめてくれ」
ニヤリと笑うAとは裏腹にエルヴィンは全く笑わずに、ピクシスからの手紙を開けた。
「女性関係の事で君が俺に苛立つそぶりを見せたのは初めてだな」
「苛立ってない。目の前でいい歳した大人がイチャつくのを見てられなかっただけ。…早く読めば?指令、急いでたから」
Aは他に何も言わず腕組みしてエルヴィンから目を逸らした。
余計な事を言いそうなときは黙秘するのが彼女の常套手段だ。
手紙を読んだエルヴィンは何か考える素振りをするとAを見た。
その表情にAは何かを察して身構える。
「俺はこれから王都に行く。馬車を用意してほしい」
「分かった。他には?」
「ハンジに渡してほしい手紙がある。これから書く」
言われてAはすぐに病室を出た。
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作者名:ララ | 作成日時:2021年5月7日 20時