第51話 エルヴィン視点 ページ3
部屋のドアを叩いたのは使用人だった。
最初はご令嬢が来たのかと思ってゾッとしたが違った。
使用人は「部下の方が急ぎの様があるため、自分と兵舎に戻ってほしいと仰っています」と言った。
このままでは泊まっていく流れにされそうだったので、エルヴィンは渡りに船とばかりに退室した。
エルヴィンを呼んだのはハンジだった。
ハンジは既に呼んであった馬車に案内すると、2人で乗り込んで家路につく。
「リヴァイはどうした？」
「ミケに無理矢理飲みに連れていかれたよ。貴族サマに偉くしつこくアピールされてたから、それを断る口実にね」
「そうか。それで？なにが急ぎの用事なんだ」
「いやいや。私は今日のエルヴィンの様子がおかしかったから気になってさ。あの場に居たくないんじゃないかと思ったから…。迷惑じゃなかった？」
「とんでもない。助かったよ」
そう言ったエルヴィンは、ジャケットを脱ぐとシートに置いて、軽くループタイを緩めた。
しばらく馬車のゴトゴトという音だけが響いていたが、ハンジが口を開く。
「あの婚約発表には何か、裏があるんだろう？」
「そう思うか？」
「思うね。エルヴィンがそう簡単に結婚なんてするわけないからさ。それに表情」
ハンジは自分の眉間に指を当てる。
「言っとくけど、私達はみ〜んな気づいてたよ。ここがピクピクしてた。無理に表情作ってたなぁってね」
ハンジは続ける。
「私はさ。エルヴィンの味方でも、リヴァイの味方でもないんだけど」
その口ぶりでは、リヴァイとAの事を知っているらしい。
そして、自分とAの事も。
「エルヴィンは、Aの事が好き？」
いきなりの真っ直ぐな質問に一瞬面食らったエルヴィンだが、すぐに頷く。
「ああ。大好きだ。彼女の為ならなんでもしよう」
本当に大好きだ。
言葉にするだけで身体がむず痒くなるほどに。
その答えを聞いて、ハンジは窓枠に肘をつくと、「こっちが恥ずかしくなるよ。聞かなきゃよかった」とだけ言った。
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作者名：ララ | 作成日時：2021年5月7日 20時
