「夏の体育館って地獄」 ページ7
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「…なあ研磨、TO開け一発目はツー狙いや」
「分かった」
「黒尾さん、5番に着く時はクロス締めて下さい」
「あいよ」
夏休み前最後の練習試合。
むんむんと空気がこもった体育館には4台の小さな扇風機など無意味だった。
この1ヶ月、Aは都内のバレー強豪校のDVDを色んなツテを使って集めては見漁り、選手それぞれの特徴を捉えていた。
そして、同時に。
「副主将、…指、やっとりませんか」
「…!」
「やっとりますよね。テーピングするんで、こっち座って下さい」
選手たちが隠してしまう、怪我も。
選手にとって怪我は致命的だ。
せっかく掴み取った試合への出場権を自ら手放したくはない。
Aも現役時代はそうだった。
だからこそ、癖になってしまう前に、全力で選手たちが試合に望めるように鋭く選手たちを見るようになったのだ。
「いやあ、Aにはお見通しってわけね」
「先輩、テーピング強めますよ?血、止まっちゃいますよ?」
「ごめんって!」
因みに、猫又監督にも褒められた。嬉しい。
「夜久さんナイスレシーブ!」
「よっしゃ!研磨ナイス!」
Aの言った通り、14番からのサーブを夜久が綺麗に拾い上げた後、研磨に渡ったボールは研磨のツーアタックで相手コートに落ちた。
19-15
Aは手元のスコアブックにTKと記す。
これで、4点差。
「主将ナイッサー!」
ずっと主将が練習してきたジャンプフローターサーブが綺麗にサービスエースを取り、20点台に乗った。
続く21点も主将によって獲得した。
なんとか22点目を防ごうと主将のサーブを相手チームのリベロが上げ、5番のスパイカーに渡った。が、黒尾のブロックにより、ドシャットとなった。
音駒側の連続ポイントに、相手チームは最後のTOを取った。
「いやあ、まさか綺麗に研磨のツーと黒尾のドシャットが決まるとは」
「やっぱすげえな、A!」
先輩方に髪の毛をグシャグシャに掻き回されたAは口では「やめてくださいよ〜」なんていうものの、満更でもない顔をしていた。
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作者名:まるすけ | 作成日時:2021年12月30日 0時