君の消えた世界

久しく苦かった/広津柳浪 ページ13

「はぁ……油断したなぁ」


Aが壁に寄りかかり腰を下ろした状態で声を発する
私はそれを聞きながらその隣に立つ


「…何してんの百人長……さっさとお帰んなさいな」


腹部に血を流しながらAは言った
…Aは私の部下で若者の割には仕事の出来る娘だった

マフィアに似つかわしく無いと言いたく成る程よく笑顔を見せ
この界隈にいながら上司に緊張を持って接したりはしない娘だった


「…黒蜥蜴の長ともあろう方が、こんな部下1人に時間割いちゃダメですよ」


広「…急所か」


「見た通り…手遅れです」


深く息を吐くA、もう辛くなってきているのだろう


広「……最後だ、何か残す言葉はあるかね？」


娘は私の方にチラリと目をやる


「言葉は無いですが…宜しければ少しお時間もらえます？」


広「………構わんよ」


「なら…そのまま横にいて下さい。私の命が尽きるまで」


広「…そうしよう」


少しして、無性に煙草が吸いたくなった


広「…煙草を吸っても構わんかね？」


返事が返ってこないかと思っていたが、静寂の後…声が返ってくる


「……えぇ……どうぞ…」


煙草に火を点け、紫煙を揺らす……一度煙を吐くと
もうAは息をしてはいなかった
半分残った煙草をAの足元に置き、歩き出す


我々はポートマフィアだ……部下の死など日常茶飯事

…しかし


広「…惜しい部下を亡くしたものだ」


仕事だけはよくできる娘だった……報告すれば、銀は残念がるだろう






僅かに残る煙草の味を…私は久しぶりに苦いと感じた

ーーー

ダメだ…段々方向性を見失ってる気がしてならない…

この鼓動にサヨナラを/中島敦→←私が好きなのは貴女の幸せ/泉鏡花

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