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『…ありがとう。じゃあ、今からそっちに迎えに行くよ。待ってて』
通話終了後、ツーツーと無機質な音が耳に届く。
その音を数秒聞いてから携帯をそっと閉じた。
もしマークが知ったら、私を嫌いになるかもしれない。
だけど当然の報いだ。
たとえ友人としてでの選択だったとしても、これは彼を裏切る行為に等しいから。
でも…この選択をして後悔はない。
これで、いいんだ。
そして電話を切ってから5分も経たないうちに、フィディオが宿の前までやってきた。
「はぁっ… A！」
彼が息を切らす程だから、相当急いで走ってきてくれたに違いない。
私は彼の姿を見つけると傍へ駆け寄った。
「フィディオ、ただでさえ疲れてるのに、そんなに走って大丈夫…？」
「こんなのどうって事ないよ。君を待たせる訳にはいかないからね」
息を整え改めて体を向き直すと、彼の表情は真剣なものに変わる。
「…本当に、いいんだね？」
「うん…フィディオは大切な……友達、だから」
少し言葉に詰まりかけたけど、はっきりと本当の事を告げた。
私の言葉を聞いたフィディオは切なげな笑顔を浮かべていた。
そんな顔をして欲しい訳じゃないのに、そうさせてしまっているのは紛れもなく私のせい。
それでも…胸が締め付けられるような顔を目の前の彼以上にして欲しくない人に、私はもう出会ってしまっている。
「じゃあ、早速行こうか。あんまり時間もない事だしね」
「行くってどこに？」
「イタリアエリアで見せたい景色があるんだ」
フィディオについて行く事数分後…
イタリアエリアに着けば、彼は船着き場へと案内してくれた。
「足元危ないから、気を付けて」
「ありがとう」
彼に手を貸してもらいながら船へと乗り込む。
「おや、フィディオ。彼女とデートかい？」
船頭さんがフィディオに尋ねれば、彼は首を横に振った。
そして優しく笑った顔で私の目を見て答えたんだ。
「いや…彼女は大切な、友達だよ」
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作者名：結川 | 作者ホームページ：https://www.pixiv.net/users/17663132
作成日時：2021年8月23日 16時
