別れる準備をしていても (in×ar)

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どこにでも売ってるような


折りたたみ式の果物ナイフ。


俺を殺すつもりで持ってきたんだろうな。


それを左手の握り拳の関節に添えていく。


ぐっぐっ、と力を入れられて、


突き破った皮膚から


血がぐじゅぐじゅと流れ出てきた。









獣のような自分の声、


自分の事、自分の手、痛いというよりは熱い。


関節を繋ぐ指には太い骨がある。


そこにゴリゴリと金属が当たって


前に進まないのだろう。


女は自暴自棄になったように


俺の血まみれの手を削っていく。


それでも、


握った手を意地でも開かない諦めの悪い俺がいる。


薬指の指輪が、もう血で濡れて見えない。


痛い、痛い。


心が、何倍も。









女の首にも、サイズの違う同じ指輪が


チェーンで通してぶら下がっている。


伊野ちゃんの指輪だ。


ずっと伊野ちゃんの手から無くなっていたもの。


こんなところにあったんだ。









「とれない、とれないっ」









じたんだを踏む女の振動が


俺の手に伝って痛みを倍増させた。


思わず、食いしばった歯の隙間から


「うぅっ」と呻き声を上げてしまった。


白いものが見える、自分の手から、


薄暗い廊下の光にあたっている部分で、


深くまでナイフが達していることが分かって、


ひやりと身体が冷えた。









女の身体越しに、ドアノブが回るのが見えて、


一瞬のうちに人が部屋に入ってきた。


ドアが開かれたせいで、


ハレーションでも起こしたように


その人物が浮き彫りになる。


それでも分かる、


忘れるはずのないシルエット。









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