別れる準備をしていても (in×ar)

＊28 ページ28

.









『んー！おいしい！慧くんの食べかけのお弁当！』









「ひっ…」









ゴトン、とスマホを思わず落とした。


ぐるぐると脳が混乱する。


煮えたぎるようだった。


あいつが、


大ちゃんの手料理を食べたということに、


どうしようもない苛立ちが募る。


残り物を拝借して食べる女の気持ちの悪さも大概だが、


大ちゃんの手料理に手を出したことが許せなかった。









だからあの日、


ちょっと大ちゃんが文句を言っただけだったのに、


冷たい態度で接して、平手打ちするより酷い言葉を、


冷水のような言葉を大ちゃんに浴びせてしまった。









大ちゃんは何もしてないのに。


俺、何してるの。ホント…









大ちゃんはそれでも変わらずに、


健気に俺のお弁当や夕食を作ってくれたけど、


俺はどうしても食べれなかった。


あの女が、またこの家の廃棄物や生ゴミを


漁るとことを考えると、出来なかった。









大ちゃんは、


俺が料理を食べなくなってからますます痩せた。


昨日の夜、最後に見たときなど


ガリガリに痩せて、今にも倒れそうで、


消えてしまいそうだった。


おかえり、と言った声も細く、


優しげな瞳には痛みや悲しみが深く滲んでいて、


見ていられなかった。









.

＊29→←＊27

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す