別れる準備をしていても (in×ar)

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テレビのトーク番組の声だけが


むなしく響く中で、


俺は伊野ちゃんの服を拾い上げては


ハンガーへと掛けていく。









ほのかに香る伊野ちゃんとは別の香水の匂い。


ワイシャツの端に付着した赤い口紅。









見ないフリをしながら洗濯機に放り込み、


玄関へと向かう。


俺が先月買ってきた、


伊野ちゃんの足のサイズにぴったりの筈の靴は


一度も履くことなく隅へと追いやられ、


すり減った靴の底が玄関に二足転がっている。


それらを二足揃えてキッチンに向かうと、


湯気のたつ夕食をシンクに流し捨てていく。


サラダも、グラタンも、スープも、


デザートも、何もかも。









全部流してから気付く。


そういえば、俺、食事まだだった。


空腹などない胃、元々小食だったけれど、


最近は好物のオムライスさえ食べてない気がする。


生ゴミ入れのゴミ箱ばかり増えるな、


と思いながらキッチンの戸を閉める。









こんな日が、もう１週間も続いている。









手付かずのご飯を捨てて１週間。


家に帰ってきてからの会話が


１分もなかったのが３週間。


スーツとコートの香水の匂いは


１ヶ月半前から。


ワイシャツの口紅は２ヶ月前から。









お揃いの指輪を


身につけなくなってから３ヶ月。









２人で同居を始めてから１年。









どうして、


こんなことになってしまったんだろう。









細くなって外れやすくなった指輪を撫でながら


自問自答するのも、もう何十回目だろう。









俺は肺の中に


空気を取り入れることさえ億劫なまま、


リビングの電気を消した。









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