【中原中也】完壁な先輩をぶっ壊す話【男主】

Break 9 ページ9

もう今日は帰るな。
そう言った先輩が勘定を置いて店を出ていったのが、15分ほど前。


先輩は何も、完璧を追い求めていた訳では
無く、必死に努力した結果、

おまけのように完璧を手にした。


先輩は今、孤独という名の独房に一人だ。

俺はその独房の前に立ち尽くし、
膝を抱える先輩をただ眺めている看守だ。

そして、この世の中の大抵の人間は、
俺や先輩に背を向ける民なのだ。


先輩という人間は、矢張り何処か足らない。


それは、自分が決して孤独では無いという理解。


先輩は未だ、気がついていない。


自分が完璧であろうと無かろうと、
貴方のような男には、大抵の人間が焦がれる。


俺はそれを、貴方に伝えたいのだ。


貴方はもう少し、自由になってみるべきだ。


他人からの評価ばかりに過敏になるのでなく
もう少し自分の為に事を成すべきだ。


そして俺は、それを教えてやれる。

自由で囚われる事の無い世界へ、
貴方を手招きする権利を持っているのだ。


そして、それをする事は俺の義務なのだ。


壊れかけの心で地を這うより、
空へ行く術を知った方が幾分かマシだ。


フリーハンドで図形を描くような生き方をして欲しい。


どれだけ曲がっていたって良い、
どれだけ濃淡が破茶滅茶でも良い。


消しゴムで消すことは出来なくとも、
新しいページを捲り、そこに描く事は出来るのだから。

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