【中原中也】完壁な先輩をぶっ壊す話【男主】

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中「何も出来ない？普通の人？
なんで‥‥先輩、何でもできるじゃねぇか。」


俺が不思議そうにそう言うと、
先輩はクスリと笑って酒を飲んだ。

やがてグラスから唇を話し、
酔ったお前にだけ、特別に話すよと言った。


「俺は昔っから、その手紙にある通りの
クソガキだったんだよ。

取り立てて長所も無く、平凡でさ。

海外に行ったのも、家族に縁切られて
遠い親戚に預けられる事になったから。


周りを失望させるぐらい、
血の繋がった家族に捨てられるぐらい、


俺はホント、なんにも出来なかった。」



嘘だ。────そう思った。

そんな訳ない。

だったら、今隣にいる彼は誰だ？

俺の先輩は、何でもできる完璧野郎だ。


話を聞く限りじゃあ、先輩は元々、
人並み以下みたいじゃないか。



「親戚が死んで、日本に戻ってからは
一人で暮らしてた。

そんな時マフィアに勧誘されて、
暇潰し程度に入ったんだ。金にも困ってたし。

丁度それぐらいの時期に、美月に会って
一目惚れして付き合った。

本当に良い女でさ。

俺の為に何でもしてくれるアイツ見てたら
俺、なんて情けないんだろって。

だから、俺すげー努力した。

アイツに褒めてもらおうって。
力に、なりたいって。

でも‥‥間に合わなかった。

‥‥もうその努力は

「完璧」って言葉で片付けられる。

｢天才｣って言葉で、納得される。


‥‥努力はし過ぎるとさ、身を滅ぼすんだよ。」


この時俺の中で、一気に認識が変わった。


赤信号が青になるみたいにして。

霧が晴れて景色が色濃く見える様になった。


先輩は、決して「完璧」なんかじゃなかった。


いや、完璧だけれど、それは
先輩の努力を、周りが塗り替えただけだ。


勝手に先輩の事を「完璧な人間」として
取り扱っただけなのだ。


先輩はそんな事、望んではいなかった。


周りの為に成された努力ではない。


他ならぬ自分の為に、美月という恋人の為に
彼が望んで努力をし、結果いらない称号を手に持たされた。


たった、それだけの事だった。


たった、それだけの事だけれど、

俺にはそれが理不尽で、不合理だと思われて仕方が無かった。


俺は周りに見事に踊らされ、


完璧人間として先輩を勝手に評価し、


｢完璧｣という言葉を投げ掛け、


先輩を、邪険に扱ったのだ。


先輩の人の良さに漬け込んで、先輩を。

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