淡雪が溶ける頃3【HQ】/稲荷崎

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監督、北さんからの指示で

マネージャーの補佐として使っていいと言われたものの


あまり歩かせ回る訳にもいかないし、その場で出来る仕事を振って


『治。それこっち』

「え、同じちゃうの？」


『メーカー違うんだ

赤木さんいつもこれだからこっちに分けてるの』


「…ほんまや」


『硬さとか伸びとか
私はあんまりはっきり違い分かんないけど、皆からしたらコンディションに関わる大切な事でしょ？』


「…」

治は感心したようにまじまじと見比べながらテーピングを戻す



「治ー、ビブス」

「えーと、ビブ…ビブ…」


『こっちにあります
Aチームは黄色、Bは青でお願いします』



・・・


「Aってよう動き回っとるな」

『そう？』


治には座ったままでもできるように、ゲームのタイムキーパーとビデオをお願いしていて



ゲームが終わってカメラを回収すると顔を見あげられた

「普段部活しとる時、何してるんやろってあんま考えたことなかったわ」


マネージャー業務は、固定された仕事言うよりも

何でも屋に近い

『いつも同じことしてる訳じゃないからね、』


夏はドリンクの減りが早いけど、冬は補充の量は少ない

その代わりにみんなの脱いだジャージの回収があったり


公式戦前は手続きの書類や、部費の管理

求められれば相手校の監督達への接待(お茶だし)などあげ出せばキリがない



「うま！これほんまに治が作ったん？」

「さすが。食い慣れてるだけあるね」


「治にこんな才能があったなんて初耳やわ」
「昔から器用やしな」



『大好評だね、治のおにぎり』


「…おん」


ちょっとだけ照れたような
むず痒いような顔で目をそらす治



「まぁ、悪い気はせぇへん…」

『ふふ』


その日の帰り道、治はほとんど口を聞かず

侑がずっと喋っていた

アランさんや、双子の過去を知る人達は


どちらかが欠ければもう片方も大人しく、しおらしくなると昔のことを話すけれど


どちらかと言えば今は逆で

片方の穴を、もう片方がうめる

そんな感覚に近い



侑を補完するのは治で

治を補完するのは

いつだって、侑だ


・・・


「Aさん、これどっち使えばええんでしたっけ、」


『こっち』


始まった県予選


スコアを書いている間、タイムアウト時のドリンクの準備などは1年生が動いてくれる


「前から思ってたんやけど、なんで、ポカリとVAAM用意するん？」


1年生と一緒にドリンク補充にあたっていた治が不思議そうに尋ねた

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