淡雪が溶ける頃3【HQ】/稲荷崎

・ ページ39

双子の誕生日も終わり

平穏を取り戻した日常

だと思ったのも束の間



「治、今日アカンかったなー！」

1人で壁にもたれて座っている治をみんなが囲った


「まあそういう日もあるわ」

普段から双子に甘いアランさんだけではなく


「ドンマイ」

他人事には我関せずな倫まで声をかける


「俺らみんな下手くそや！
下手くそやから練習するんやろ！」

銀の励ましに、倫は「熱」と笑う



今日の練習試合で調子が悪く
さっきまで監督やコーチにだいぶドヤされていた


こういう時にマネージャーの私からの言葉は
何を言っても余計なお世話だろうから声はかけられないけれど



『治、おにぎり』

「…ごめん、今はええわ」




『あ、うん』



(何も出来ないのが、もどかしいとか思ったり…)



「このポンコツ」

治がゆっくりと顔を上げた


瓜二つの兄弟を見上げる表情は、目だけで人を殺せるのでは無いかと思うくらい鋭く


『！、』


思わず肩が震えた


「あのセッティングでスパイク決められんポンコツは
さっさとポジションあけぇや」


今日の侑は好調で、トスは完璧だった

ハマるとドンピシャで調子を上げる双子の息ピッタリなプレー

だからこそ片方の不調は余計にハッキリと浮き彫りになる




不機嫌そうに治を見下ろしていた侑は
フン、と踵を返す


「…」


黙っている治に


「侑、言い方あるやろ
治が1番身に染みてんねやから__」


銀が声をかけた瞬間


「この暴言クソブターッ!!」


助走をつけた治が飛び蹴りを食らわせる


周りにいた私達も呆気に取られて

倫はすぐさまケータイをかまえる



「てめぇが絶好調でもこっちがそうやない時もあんじゃろがい！

“なんかダメ”な時は“なんかダメ”なんじゃ
クソボケがあ!!」



治が侑の上にのって首元を掴みあげる


「身も蓋もない」


隣でアランさんが呆れて言う


「侑クンは失敗しないんですかァー!?」

ア゛ァ゛ー!?との圧をかける治を押し退けながら


「ポンコツにポンコツ言うて何が悪い!!」

「人格ポンコツ野郎に言われたないんじゃ!!」


2人の取っ組み合いが始まって


「宮兄弟の喧嘩や！」
「バレー部名物双子乱闘や」
「どっちが勝つか昼飯かけよ！」


ギャラリーが集まってくる


「北どこや!?」

「まだ職員室に…！」



『2人とも、怪我するから…』


「なんやとこのブタサム！」
「お前やってクソブタやろが____」


『辞めて』

「「!?」」


『って言ってるよね？』


「「す、すみません…」」

ー→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す