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ページ30

「正味、Aは来るやろな、思うてたから
Aの為に握ってきてん」

『…ん、』

「美味いやろ?」

『…うんっ』

満足そうに頷く治に

『…ありがとう、治

私、誰かの作ってくれたおにぎり
食べたかったんだ』

私のために握ってくれる不器用なおにぎりがあったかくて

「またいつでも握ったるし」

三角を作った優しい手は、私の頭をぽんと撫でた



「俺、Aが泣いてるとこ見んの2回目やねん」

『え?』

「入部したての頃、洗濯機の前で」



初めてボール出しをして、侑のスパイクが私の目の前を掠めた時

別に怖かったわけじゃない。びびったりした訳じゃない



そう言いたいけど

本当は


回転のかかったあのボールが物凄いスピードで目の前に迫り

バシン!と大きな音を立てて地面に叩きつけられたとき

怖くて、震えが止まらなかった


こんなボールをレシーブして、繋いで、打って


彼らはこんな世界で戦ってるんだって


何も知らなかった
何も出来なかった自分が、情けなくて、悔しくて


涙が止まらなかったあの日


洗濯を回しながら声を殺して泣いた



『…見てたの?』

「通りがかりにな。」

治の表情は、もう何を考えているか分からない


「あん時は、あぁ、この子も泣くんやって

ちょっとびっくりした…って感じやってんけど」


『…?』

泣く女は嫌いだ、と言う侑達のことだから

失望でもしたのかと心が痛む


「ほんまは泣きたいくらいしんどいんよなぁって、なんかもやもやして」

『え?』

「泣くんやったらツムとか、怒ってくれる先輩達おるとこで泣けばええのに

誰もおらん場所で、俺らのための仕事しながら1人ぼっちで静かに泣いとるんが…

なんやろ、上手く言えへんけど」


治は言葉を切って、私の顔を見た

「もうあんな風に泣かせたくないなって思ったんよな」

『…ロマンチストだね』

「ふっふ」

頬を弛めて


「泣きながらおにぎり食うてると、俺ら今千と千尋みたいやな」

『ほんとだ』

大笑いしてしまうようなボケじゃなくて

穏やかに、緩やかに

ふっと笑ってしまうような笑いを与える不思議な人


「ほな、そろそろ教室行こか」


昇降口に向かうと、先に行ったと思っていた倫と銀が待っていて

「あかん、今日俺数学当たるんやった!
治練習問題やってきた?」

「やっとると思うか?」

「思わへん!」

「ドンマイ銀〜」

「助けてくれよ角名」

「無理」

私達の声に、机に伏せていた侑が顔を上げた

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作者名:りな∞ | 作成日時:2023年11月6日 1時

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