繋いだ手12

伝えたいこと ページ38

真司郎side


全てを話し終えると、黙りこくっているA。


その様子にやっぱり過去の事なんて話すべきじゃなかったんやろうかと感じて、後ろからAの顔を覗き込むと、俯いて目に溢れんばかりの涙をため唇を噛み締めていた。


真「え、なんでAが泣くん…、」


あ「だ、って、そんなの…、」


きっとAは俺が傷付いていると思っているんやろう。


そりゃ全く傷付いてないのかと聞かれれば、ほんの少しは…。


でもそいつとは向こうから告られてなんとなく付き合ってただけ。


元々趣味も話も合わんかったし、こないだ日高さんも言ってたけど今思えばあざといやつやったんやと思う。


変に自分に自信をもってるようなやつで、Aとは正反対なタイプだったのを覚えとる。


それに俺はそいつの事が好きだったわけやない。


引きずることなんかなかったし、未練もない。


そいつにも、今まで付き合ってきたやつにもそれは微塵もない。


俺は浮気をされた事実を知っていてほしかっただけで、今Aに伝えたいのはそこじゃない。


裏切られた事がある俺だから言えることがある。


真「A、こっち向いて。」


ピクンと小さく肩を揺らしたAは手を解くとゆっくりと振り向いて、まだ涙を浮かべたまま俺と視線を合わせる。


解かれた手をもう一度繋ぎ直して、きゅっと握りしめた。


真「ごめんな、こんな話して。
　 知っといてほしかってん。
　 でも俺がAに伝えたいのはそこじゃない。」


そう言うとAはじっと俺の瞳を見据える。


真「俺がこの世の中で1番嫌いなもの、知って
　 る？」


あ「…虫？」


真「いや、まぁそれもやけど。」


確かに虫も嫌いやけど、それよりももっと嫌いなもの。


真「この世の中で1番嫌いなんは浮気。
　 俺な、浮気って言葉も、浮気するやつも大嫌
　 いやねん。
　 俺の知り合いがもし浮気しとったら、縁切る
　 ぐらい。」


もしも西島が宇野ちゃんを裏切るような事があったら、躊躇なく縁を切る。


それは末吉さんも、日高さんも他のやつも同じ。


真「もし浮気したんがAの友達やったら…
　 縁を切ってほしいって言うてると思う。
　 そんな人と付き合ってほしくない。
　 それくらい嫌いやねん。」


今回は元旦那側の浮気やからそこまでは言わんけど。


真「それとな、もう1つこの世の中で嫌いなものが
　 ある。
　 Aを傷付けること。」

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