繋いだ手10

紡がれる言葉 ページ24

真司郎side


この場所にいると、あの頃の気持ちに引き戻されて、また後悔が胸の中を埋め尽くす。


あ「真司郎、聞いてもいい？」


真「ん、なに？」


あ「こっちにきてから、やっぱり大変だった？」


真「まぁ、生活環境も何もかもちゃうから、慣れ
　 るまで大変やったかな。」


慣れない環境と仕事、英語に慣れるのに精一杯だったあの頃。


やっと慣れたのは、半年が過ぎた頃だった。


あ「そうだよね、私もそうだった。
　 新しい会社に行って、知らない人達に囲まれ
　 て、毎日慣れるのに大変だった。
　 余裕もあんまりなかったんじゃない？」


真「そうやなぁ、なかったかもしれへん、」


すると、一瞬の沈黙が訪れたあと、Aが呟く。


あ「きっと、間違ってなかったんだよ。」


真「え？」


あ「あの時の私達。」


真「どういうこと？」


なんのことかわからずに、頭の中にはてなが浮かんでくる。


あ「さっきね、もしもの話ししたでしょ？」


抱きしめた腕に触れる、Aの手。


あ「もしあの日、真司郎の気持ちを聞いて、恋人
　 同士になってたら、きっとね、私、すっごく
　 わがままになってたと思うの。」


ぽつり、ぽつりと言葉を繋ぐ。


あ「こんなに好きなのに、何で離れなきゃいけな
　 いの？
　 会えないの？そばにいてくれないのってわが
　 まま言って、泣いて、
　 真司郎の事、困らせてたと思う。」


真「言ったらいいやん、」


そんなわがままなAも少し見てみたい、なんて思ったり。


あ「真司郎の事だから、きっとそう言うよね。」


真「それじゃあかんの？」


あ「うん、だめ。」


きっぱりとした口調で言う。


あ「さっきも真司郎言ってたけど、もし私がそん
　 なわがまま言ってたら、無理してでも帰って
　 こようとするでしょ？」


真「してたな、きっと。」


だけど、ほんまにそれができたかは、正直なところはわからん。


あ「仕事に慣れるのに手一杯なのに、私のことも
　 ってなったら、きっと苦しめてた。」

……。


あ「それにね、自分で自分のことが嫌いになって
　 たと思う。
　 真司郎の夢応援するって言ったくせに、その
　 邪魔をする自分が嫌いになって、許せなく
　 て。
　 私も真司郎も、中途半端になってかもしれな
　 いし、それに…。」


ひと呼吸おいて聞こえた言葉は


あ「最悪の形とったりしちゃったかも…。」


もしもの話だとしても、胸が嫌な音をたてる。

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