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リクエスト_先の微醺_ ページ5

とある日曜の昼下がりである。



珍しくも過ごしやすい気温であった其の日、探偵社寮太宰家にはアルコールの匂いが漂っていた。




「呆れた人だなあ。昼間から酔っ払ってるの?」



卓袱台で小振りな焼酎の瓶二本目を開けている太宰治を、蒼空は苦笑と共に咎めた。



その声に振り返ると、太宰は心做しか薄い紅に染まった顔に微笑を称えた。




「まあね。呑む?」


「…良くないよ、あんまり呑みすぎると。」




隣に腰を下ろしつつ蒼空がそう答えると、太宰は芝居掛かった様な仕草で首を振って云った。




「何故、いけないんだ。どうして悪いんだ?有るだけの酒を呑んで、人の子よ、憎悪を消せ消せ消せってね、昔ペルシャの…まアよそう、悲しみ疲れたるハァトに希望を持ち来すは、只微醺をもたらす玉杯なれ、ってね。分かるかい?」


「何云ってるの、治。」


「ふふふ…でも考えたこと無い?酒で何処か逃げ道が作れるんじゃないかって。」


「よく分からない。」


「この野郎。キスしてあげようか。」


「ふふ。してよ。」




まるでここまでの会話が一種の冗談だったかの様に、そしてこれもまた冗談であるかの様に小さく笑って、蒼空は目を閉じて躊躇いなく下唇を突き出した。

然しその仕草はあながち冗談にも見えず、寧ろ大真面目な様に見えた。



「莫迦。貞操観念、……」




そう云いかけて、太宰は困った様な嬉しい様な微妙な笑みを零すと、頭の中に常に渦巻いている幾つもの思考を取り払ってから、蒼空の唇に己の其れを重ねた。




「…一緒に呑む?未だあと二本位有るよ。」


「そんなに呑む気だったの…?」




「呑もうかな、そんなに呑ませたくないし」と云って蒼空は立ち上がった。

食器棚に鎮座しているお猪口を取りに行く為だ。



ついでに冷蔵庫の中身で肴でも作っていこう。どうせ此奴は味の素をこれでもかと云う程かけるのだから、思いっ切り薄味で。




そんなことを思いながらキッチンへ向かう。







其の頭に、先程の裏がありそうな太宰の言葉は余り重要なものとして残っていなかった。


其れもどうかと思うが、案外此の二人が上手く行っている理由はこういう所なのかも知れない。


____

千風からのリクエスト、「『人間失格』百十頁のヨシ子と葉蔵の会話のパロディ」でした。

こんなんで良かったかい?
書き直しが欲しければ幾らでも書くぜ!

…リクエスト、お待ちしております!

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千風(プロフ) - そら豆さん» そ……の………う………………ち………………………………… (2019年1月20日 13時) (レス) id: d4838ee308 (このIDを非表示/違反報告)
そら豆(プロフ) - 千風さん» 読み直すなんてことを滅多にしないから誤字も違和感も気付かないのよね。ありがとう。そのうち直しとく。 (2019年1月20日 9時) (レス) id: a1dcc5c8f0 (このIDを非表示/違反報告)
千風(プロフ) - ところで前から不思議だったんだけど、国木田君の「言い訳あるか阿呆が!」は「良いわけあるか阿呆が!」なんだよね……? (2019年1月18日 21時) (レス) id: d4838ee308 (このIDを非表示/違反報告)
千風(プロフ) - しいぽんさん» お前は……何故我の作品に現れん……さてはアンチかこの野郎!(自己主張もいいとこ) (2019年1月18日 21時) (レス) id: d4838ee308 (このIDを非表示/違反報告)
千風(プロフ) - そら豆さん» 国木田さーん助けてくださーい、厨二病患者が厨二病患者を厨二病患者って言ってまーす (2019年1月18日 21時) (レス) id: d4838ee308 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:空豆火月(そら豆) | 作成日時:2018年5月28日 19時

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