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7日目 ページ7

総悟が漸く松葉杖をついて歩けるようになった。
Aは嬉しそうに彼の隣に立って、中庭へ案内した。病院にある数少ない緑の場所だ。
「この池にはね、金魚がたくさんいるんだ」
「へえ」
「あっちは、夏になると燕が巣を作る」
「ふうん、なあ、一つ聞いて良いか?」
「何?」
振り返ると、服と目玉だけが浮いているような違和感があった。しかしその違和感こそが、彼女のあるべき形。
「あんた、なんで裸足なんだ?」
「靴を履くと痒くて。それに痛みも無いからね」
そう言ってはいるが、彼女の足先は赤く、紫に変色し、爪はボロボロだった。
「外に出られるのも30分が限界だし、履いててもって感じ」
「ソレが関係してんのかい?その、見た目が」
「うん」
彼女はごく自然な笑顔で、花壇の縁に立った。煉瓦で囲われたそこは雪で埋もれ、花が下にあるのは明らかだった。
「皮膚が凄く弱くて、日差しに当たることもできない。今日は曇りだから外に出たけど」
「へえ。夜兎みてーだなぁ」
「夜兎?ああ、三大傭兵部族の」
「知り合いにいんのさ。クソゲロインだけどなぁ」
「いいね。今日はその子のこと聞かせてよ」
「部屋に戻ってからな」
「今でも良いのに」
外に出て15分しか経っていないが、総悟は何となくそれ以上そこに留まりたくはなかった。
部屋に戻って神楽の話をした。どんなことをされたとか、どんな奴だとか、ほとんど悪口だったが、彼女は笑って頷いて聞いていた。
「夜兎、いいね。人間に見えるのにそんなに強いなんて。私とは真逆だ」
「いやでもクソだぜ?馬鹿みたいに飯食うし、馬鹿みたいに横暴だし」
「会ってみたい。夜兎なんてここに入院することもないもの」
総悟は頬杖をついて悪趣味だねぇと鼻で笑った。Aは毛先を弄って、どこか虚空を見ていた。
「外に、出られたらいいのに」
ぽつりと呟かれた彼女の願いそのものと、その影が差した顔はやはり姉に似ていた。甘えたいわけではない。ただ、似ているせいで無下にできない。
「海で、日傘も無しにお日様を見るのが夢なんだ。真夏にワンピースを着て走るのも。普通の女の子みたいに、恋人と手を繋いで歩くのも。どれもこれも無理だけど」
「…」
「総悟は?どんな夢がある?」
「俺ぁ、帝国を築くのが夢でさぁ。土方に土下座させて、その上に座ってカイザーとかなんとか呼ばれる」
「大きく出たね。でも君ならやりかねない」
口元に手を当てて、くすくす笑う。それも姉によく似ていた。
お互い叶えばいいね、なんて。

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ソーサラー(プロフ) - たたさん» ありがとうございます! (2021年11月11日 12時) (レス) id: 465e22fbd6 (このIDを非表示/違反報告)
たた(プロフ) - あとがきの言葉を含め、とっても素敵なお話しでした。😌 (2021年11月8日 13時) (レス) @page49 id: 3fb8fe7daf (このIDを非表示/違反報告)
ソーサラー(プロフ) - ☆さん» ありがとうございます。褒められて調子に乗らないように、頑張ります。 (2021年8月17日 0時) (レス) id: 1368eb388d (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 表現の仕方が丁寧で、神秘さと儚さ、知的さを持ち合わせていながらどこか子供のようにあどけない夢主ちゃんの魅力がたっぷりと伝わってきました。とても好きです…。無理なさらず頑張ってください!応援しております! (2021年8月16日 13時) (レス) id: 9c28cba465 (このIDを非表示/違反報告)
ソーサラー(プロフ) - ことにゃさん» ありがとうございます。頑張ります。 (2021年8月2日 22時) (レス) id: 1368eb388d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ソーサラー | 作成日時:2021年7月22日 23時

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