3日目 ページ3
Aと名乗った少女は細く、小さく、しかし自分と同い年だった。
彼女は産まれてこの方、まともに外で生きたことがなく、ずっと病室101で育ってきたらしい。こうして年の近そうな少年少女を見つけては、短い友情を育んでいるのだと。
「こんなところで暮らせるって、相当金持ちなんですねぇ。あんたの親は」
「うん」
「否定されないのもムカつくな」
「本当のことだから。嘘吐いたってムカつくでしょ」
「そーでしょーけどぉ…何してやがる？」
「折り紙。紙がいっぱいあるから」
床にぺたんと座って彼女は次々に総悟が床に置いた始末書の束を可愛らしい動物に変えてしまう。まるで魔法使いのように。兎、蛙、金魚、馬、鶴…。
「字、読めねーのか」
「読めるよ」
「じゃあ、あんた、知っててその書類で折ってるのかい？」
「書類が嫌いなの。本は好き」
「へえ」
「恋愛小説は嫌い。舞い上がって馬鹿みたいだから」
「あーそりゃ俺も賛成でさぁ。ああいう奴らを見ると、こう、しばきたくなる」
「乱暴だね。でも、その方が君らしい」
最後に折ったのはゴリラだろう。彼女はそれらをテレビの前に飾って、くるりと振り返った。今日も裸足だ。
「ねえ、総悟。君のことを聞かせてよ」
「嫌だねぃ。なんだってほぼ初対面の相手に」
「じゃあ、君の友達のこと。外のこと、何でもいいから知りたい。駄目？」
「駄目？って…あんたそれわざとかい？」
首を傾げる彼女は、どことなく幼い。総悟は溜息を吐いて、体を起こした。その拍子にひびやら折れた部分やらが痛んだ。しかし女を前にそんなことを顔に出さず、彼は彼女に向き直った。Aは椅子に座って、総悟の隣に行き、話を聞く体勢に入った。何とも育ちの良い姿勢だ。それをされて嫌な気持ちにはならない。
「俺の知り合いに、銀髪のいけ好かねぇ男がいる。万事屋やってて、家賃も払えないちゃらんぽらん。今も昼からパチ行ってる」
「万事屋？」
「何でも屋さぁ。金さえ払えば、何でもしてくれる」
「なんだかかっこいいね」
「かっこいい？」
「うん。正義のヒーローみたい」
「バカ言うんじゃねぇ、俺達真選組の方が…」
総悟は慌てて首を振って、とにかく、と話をつづけた。彼女は興味深そうに見ている。
「その、万事屋の旦那が、ええと、甘いもん食いすぎて糖尿病になってんのさぁ。どんぶりに米と小豆ぶち込むような奴でねぇ」
「へえ。美味しいのかな。やってみよう」
「バカ、やめろ」
くすくす笑って、彼女は冗談だよと目を細めた。
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ソーサラー(プロフ) - たたさん» ありがとうございます！ (2021年11月11日 12時) (
レス) id: 465e22fbd6 (このIDを非表示/違反報告)
たた(プロフ) - あとがきの言葉を含め、とっても素敵なお話しでした。😌 (2021年11月8日 13時) (レス) @page49 id: 3fb8fe7daf (このIDを非表示/違反報告)
ソーサラー(プロフ) - ☆さん» ありがとうございます。褒められて調子に乗らないように、頑張ります。 (2021年8月17日 0時) (レス) id: 1368eb388d (このIDを非表示/違反報告)
☆(プロフ) - 表現の仕方が丁寧で、神秘さと儚さ、知的さを持ち合わせていながらどこか子供のようにあどけない夢主ちゃんの魅力がたっぷりと伝わってきました。とても好きです…。無理なさらず頑張ってください！応援しております！ (2021年8月16日 13時) (レス) id: 9c28cba465 (このIDを非表示/違反報告)
ソーサラー(プロフ) - ことにゃさん» ありがとうございます。頑張ります。 (2021年8月2日 22時) (レス) id: 1368eb388d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ソーサラー | 作成日時：2021年7月22日 23時
