沖田総悟と病室101

16日目 ページ16

「本当にAさんは教養溢れ堪能でいらっしゃる。さぞやご両親もご自慢のことでしょう」
「ありがとうございます。風介さんも博識でお話しするのが楽しいですわ」
んなわけないが。調子に乗るなよ二枚目、その前歯へし折って六枚目くらいにしてやろうか。
悪態をつくわけにはいかない。Aはにこにこしながら二日連続で訪れた無作法で不躾な男の相手をしていた。どうやら父が彼をいたく気に入っているようだし、宇宙貿易の松島と言えば知らない者はいない。
Aは自身の見目の異常性故か美醜の判断はつき難く、彼の家柄は魅力的だった。純粋に自分がデザインした家具が宇宙へ行くことに興味があったし、天人から見た自分の椅子がどう目に映るか知りたいものだった。断ち切ろうにも惜しい家柄、それに松島風介は実子でありながらさらに事業を展開させ、業績を伸ばすことでもちょっとした有名人であった。
「姉さん」
今日は父ではなく護清十郎と母が一緒に来たらしい。母のお付きが持っている茶封筒には、恐らく自分の体のことについてが事細かに書かれたものがあるに違いない。
「そろそろ冷えるよ、中に入りなよ」
「おやぁ、護清十郎。君は風介さんの前では随分姉思いなんだね」
「うっ」
「誤魔化すくらいすればいいのに」
「ははは、仲の良いご兄弟ですね」
いつもは不愛想な顔をしている護清十郎が彼の前ではぎこちなく笑っているのを見て、面白がらずにはいられない。しかしそれ以上虐めると母やあまり良い顔をしないので、Aは弟の言葉の通り病院の中へ入っていった。
昨日はフレンチを食べて胃もたれを起こしているのだが、今日はどうするのだろう、流石に夕食までは…。
「本日はイタリアンを予約しました。どうでしょう、Aさん」
「…嬉しいですわ。私、イタリアンも好きですの」
クソが。
大体病院暮らしにフレンチだのイタリアンだのこいつ頭おかしいな。いや、それくらい自分を気に入っているということだろうか。風介はAの手を取って嬉しいと言って笑う。やや赤らんだ頬が可愛くないと言えばウソになる。
にこっと笑ってやる。
「ほほほ、では護清十郎、私達は帰りましょう。あとは二人で…」
「…はい」
護清十郎は何か言いたげにこちらを見てから背中を向けた。言えばいいのに、何を恐れているのか。いつものように死ねと罵ればいいのに。まあ、客人の手前そうも言えないか。
髪を耳にかけると、風介が自身の首を掴んで、へにゃへにゃ笑っていた。
不気味だ。

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