4品目「寄せ鍋の思い出」 ページ4
春先は三寒四温。
昼間は暖かくても、朝夕はまだまだ冷える日が多い。
今朝は午前中から取材のため早くに起きたけれど、なかなかに寒くて布団から出るのが億劫だった。
「……今晩は鍋でもいいかも」
きっと帰りは遅くはならないはず。買出しをしてから帰ろう、そんな算段をつけながら白湯をすすった。
「キスマイのメンバーの方のお家に、プライベートで遊びに行ったことはありますか?」
「そうですね……かなり昔のことですが。」
取材中、起きがけに鍋のことを考えていたせいか、俺はあることを思い出していた。
1度だけ。本当にたった1度だけ、いわゆるファンから兄組と呼ばれる3人で鍋をしたことがあった。
たしか北山の家だったと思う。記憶がかなり曖昧だけど、キスマイを結成して間もなくの頃だったような気がする。
あの頃は3人とも20前後で、まだノリと勢いでいろんなことができた。誰が最初にやろうと言い出したのかはもう忘れてしまったけど。
北山が用意した材料が肉ばっかで、俺が渋々買出しし直しに行ったんだっけ。
そんなこともあったな……と懐かしく思いつつ、取材の受け答えには当たり障りのない別のエピソードを答えておいた。
……自分だけのものにしておきたい思い出だってある。
あの鍋会をした夜。
北山だけ先にお酒で酔って寝落ちしてしまい、俺と太輔で締めと片付けをすることになったのだけど。
鍋をキッチンに持って行ってリビングにおたまを取りに戻ろうとしたとき、見てしまった。
……気持ち良さげに寝息をたてる北山を見つめ、丸い頬を愛おしげに撫でる太輔を。
普段見せたこともないその優しい眼差しに、全てを悟った。
俺は何も見なかったことにして、そのまま静かに鍋のもとに戻ったのだった。
きっとこれは墓場までもっていく話になるだろう。
あの日はたしかキムチ鍋だった。
「今日はあっさりめに、水炊きの気分かな」
昆布と鰹の出汁を効かせた、野菜たっぷりの鳥の水炊きにしよう。
しみじみと味覚も、関係も、いつのまにか、ずいぶん大人になってしまったなと思う。
俺も、あの2人も。
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エマール(プロフ) - ユキさん» ユキさんはじめまして。いつもお読みいただきありがとうございます。そう言っていただけてとても嬉しいです!ゆっくり更新で申し訳ありませんが、これからもよろしくお願い致します(*'▽'*) (2021年6月9日 22時) (レス) id: 930eedf6c5 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - はじめまして。いつも読んだ後にふふふ…って思わず微笑んでしまうのでどのお話も大好きで、定期的に読み返させていただいています。番外編も読んでほっこりでした(^ ^) (2021年5月29日 16時) (レス) id: d4b3736ff0 (このIDを非表示/違反報告)
ななな(プロフ) - あ、誤字失礼しました…汗 (2021年3月30日 12時) (レス) id: d0578835d1 (このIDを非表示/違反報告)
ななな(プロフ) - エマールさん、お返事ありがとうございます、嬉しいです♪はい、ぜひご自身のペースで無理なく更新なさってください!楽しみにお待ちしておりますので(^^)赤担なので、お腹すかせてるみっくんも可愛いさは、スパダリ横尾さんもカッコ良くて、最高です!! (2021年3月30日 12時) (レス) id: d0578835d1 (このIDを非表示/違反報告)
エマール(プロフ) - なななさん» なななさん初めまして。ご感想、およびいつもお読みいただきありがとうございます!横尾さんのスパダリ感本当にたまりませんよね…ゆっくりペースの更新ですが、これからもよろしくお願い致します。 (2021年3月28日 21時) (レス) id: 930eedf6c5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エマール | 作成日時:2021年2月25日 4時