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「先生、この後事務に行ってもらってもいいですか？」
彼女が退院して1週間。
相葉ちゃんが、医局に声を掛けてきた。
未だ会計が済んでいないのだから、個室代と検査料の精算に、ましてや、名前の分からない患者の会計処理に手こずっていることは明らかだった。
「分かった。やっぱり、無理だったかなあ」
「無理って…そうなったら、どうするんですか？」
相葉ちゃんが心配そうな声で聞いてきた。
「自分の研究目的にして、僕が負担するしかないよね」
そう答えると、隣の部屋の先輩方がわざわざ声を掛けてきた。
「准教授の先生は、自由でいいなあ。患者想いで素晴らしい。教授にはできないことだなあ」
「本当だなあ。櫻井先生には、いつまでも准教授としてご尽力願いたいところですな」
大学病院の医局員は、日々診察にあたると同時に、准教授、教授を目指し、研究に励んでいる。
俺は、手術実績と論文が評価され、2年前、通常より数年早く准教授に昇進した。
准教授、その先の教授のポストには限りがある。
自分がその地位に先輩方を抜いて就いたということは、誰かがそのポストに漏れたことを意味していた。
その頃からだ、僕に反発する勢力が嫌味を言うようになったのは。
「ええ。こうするしかないと考えたものですから。では、失礼致します」
医局を出る際に、盛大な舌打ちが聞こえた。
情けない、くだらない。こんなことで足を引っ張ってどうするんだ。
「ごめん、翔ちゃん。僕が医局で言ったから…」
隣の相葉ちゃんは心底申し訳ないという表情をしている。
「なんで相葉ちゃんが謝るんだよ。大丈夫だから、気にしないで」
事務に向かう前に、彼女にかかった費用を自分なりに計算するために、彼女にどんな治療をしたのか、再度整理しようと思った。
「相葉ちゃん、彼女のカルテ出せる？」
「うん、待ってて」
相葉ちゃんがカルテを引き出せるパソコンが載ったカートを持ってきた。
「えーっと、名前がないから索引が使えなくて…」
「うん、大丈夫」
そうだよなぁ。名前がないというだけで、一般的な患者と違い、検索すらできない。
今この瞬間も、彼女はどこかで生きているだろうけれど、彼女のいる証はどこにもないように感じて、切なくなった。
「んー？これかな？あー、あったあった！」
「ありがとう、ちょっと確認させて」
細かくチェックする。
うん、個室代がなければ4万円あれば問題なさそうだ
「オッケイ！相葉ちゃん、お昼行こう」
院内の食堂に向かった。
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いずみ(プロフ) - meiさん» 初コメント下さり、ありがとうございます！嬉しいです！これからもよろしくお願いします！！ (2020年2月7日 16時) (
レス) id: 9c1572c021 (このIDを非表示/違反報告)
mei(プロフ) - 感想書かせていただきます！！ほんとに心が暖かくなる作品だなーと思います！！これから主人公がどうなるのかなーとワクワクしながら更新待っています！楽しみです！頑張ってください！！ (2020年2月7日 14時) (レス) id: fd406e97dc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：いずみ | 作成日時：2020年1月24日 14時
