アネモネ夢気分（os） (ページ3)

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入学式は午後からで、午前中に新しい教師の着任式、始業式が行われる。

俺たち1組を２年生まで受け持ってくれた担任の先生は去年離任してしまった。３年になって担任が変わるのは少し不安はあるけど…、どんな人が来るのかは気になる。

１学年分人数が足りない体育館。新鮮な感じがする。
ザワついていた生徒達は、教頭の声によって次第に静かになった。

｢着任される先生方を紹介致します｣

体育館にゾロゾロと入ってくるスリッパの音が響く。小学生じゃあるまいし、後ろを振り向いて確認するなんてことはしないけど、皆気になるみたいでそわそわしてる。
全員が壇上に上がったところで、やっとそれぞれの顔を確認することができた。
１番左にいる初老の男性は新しい校長だろうか…ひとりひとりの顔をじっくりと観察していくと、俺の視線はある１人の人物で止まった。

｢え…｣

知ってる。
俺は、この人を……知ってる。

｢３年１組の担任と、体育の授業を担当する大野智です。よろしく｣

大野、智。

『翔くん』

あの声が、喋り方が、記憶から呼び起こされる。
フニャ、と上がった口角。間違いない。
新しく赴任してきた担任の先生は、俺が小さい頃に憧れた隣の"智くん"だった。

.

｢えー！大野先生と知り合いなの！翔ちゃん！｣

｢しーっ！うるさい！｣

式典から戻ってきた俺たちは、各教室で待機を命じられた。俺の席に遊びにきた雅紀に、"智くん"のことをコッソリ教えた、のにコイツは！

｢知り合いっつうか…あっちは覚えてねえよ、多分｣

｢まあその髪型じゃ気付くものも気付かないよね～！｣

｢喧嘩売ってる？｣

｢滅相もございません｣

その時、ガラッと前のドアが開いた。
生徒たちは急いで自分の席に戻る。
クラスの視線は一斉に教壇に立つ彼に向かう。
ああ、やっぱり、智くんだ…。髪の色は少し明るくなったような気がする。

暫く見つめていると、ふと彼と目が合ったような気がして、パッと下を向く。
馬鹿、前髪があるんだから目が合う筈がないのに…。