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私はズズッと鼻を吸って、食べかけたおにぎりを置いた。
すると、彼はそれを手に取り、小さな1口を食べてくれた。


「…美味しくない」


彼はそう言った。
そして人形を抱きしめて、チラリと見つめてきた。
それでも私は微笑んだ。


『うんっ、手抜きだからねっ』
「……」

『……ひっくっ、うっ…ごめん…ね、手抜き…』
「お姉さん?」


『あははっ…こんな、大事なのに、手抜き…っ、て…うっ…はぁっ…はぁ……ごめんねっ…』


私はそう言って思わず泣き出した。
嗚咽をあげると、彼は牢越しにオロオロしていて、不安げに人形を抱きしめていた。

_彼が話してくれたことの嬉しさなのか。
こんな時に限って私の手抜きのという悔しさなのか。
感情がグチャグチャで、なんの涙か分からなかった。

私は少しの間、涙を流し続けた。


___
__


涙が止まり、残ったおにぎりを口を食べた。
Q様は不安そうに私を見ては、もうおにぎりを食べることはせず、傍で私を見つめていた。


『明日は遅刻しません。絶対にね』
「うん。僕、待ってるから」


Q様はそう言ってくれた。
思わず頬が緩むと、牢に手を向けた。


(あ、撫でれないんだった)


すぐに引っ込めて『ありがとう』と口を開けた。
気づくのは早かったし、私は最後の一口を口に入れては、いつものミカンを最後に入れた。


「……」
『足りないだろうし、暇なら食べてね』


そう言って立ち上がった。
親子丼には全く手が着いていないことを確認して、この部屋から出ようとした。

だが、その前に足を止めた。


『また明日。Q様』


私は笑ってそういった。
そして軽くなった足を進め、エレベーターに乗った。


「…」


彼女が去った後、いつも通り部屋の奥へと戻っていた。
だが少しの間、ぼーっとしては人形を強く抱き締めた。


「嬉しい」


小さくそう呟き、人形に顔を埋めた。
すると少しの間またぼーっと思い出し、顔を出した


「可愛かった…」


彼の中には、涙を流してる彼女が居た。
__彼のためだけに流れた涙に心を奪われていた。

すぐにこの感情がなんだか分かった。
考えるだけで心がいっぱいになる、本の中だけで読んだ感情。


(”恋”か……)

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作者名:シグマ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp//  
作成日時:2023年10月2日 7時

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