絶対命令【文スト】 (ページ30)

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「数字が0じゃった。異能力も失った…」

ふと、尾崎紅葉は振り返って太宰治にそう言った。
彼女の異能力は消え、大きな涙が溢れていた。

「……」
「裏切っておって無ければ、私のいい秘書になっておったのに…」

ふと、彼女は最後に目を開けた。
数分遅れで起きる最後の命は、まだ誰にも知られてない。

『…』

背を向けている尾崎を仕留めるのは簡単だ。
目を覚まして呼吸が戻り、すぐにナイフに力を入れて尾崎紅葉に向けてナイフをふった。

「なっ……ｯｯ〜!?」

すぐに反応した尾崎紅葉だが、不意を取られ背中に傷が入った。
太宰治が数発撃つと彼女は軽い足取りで引き下がった。

『ｺﾞﾎｯ…』
「…」

ふと、彼女は少し離れるとしんどそうに口元を抑えた。
咳き込み、手を見ると真っ赤に染まっていた。

_よく見るとダルそうにしていて、少し眠そうにしていた。

その様子を太宰治はじーっと見ていた。
そして彼女の目が向くと、彼は笑っていた。

「君はどこまでも、不意をつくのが恐ろしいよ」
『…そうですか』

「Aが持ってるものはなんだい？
もしかしてそれ、森さんの大切な書類？」

太宰治はAの持ち出した書類を目につけた。
Aは呆れたように落とした書類を拾っていた。

『……』
「困ったなぁ。本当にAが『ねぇ』…？」

不意に彼女が口を開けた。
思わず言葉が途切れると、黒い瞳の目が殺気を含んで彼を見つめた。

『Aって呼ばないで。私はもうマフィアじゃない。
邪魔するの？なら、殺す』

「…邪魔はしないよ。私は負傷者だからね」

そう言って太宰治は一昨日受けた傷を見せつけた。
拳銃も落とし、にっこりと貼り付けた笑みを浮かべていた。

『そう』

彼女はナイフをしまい、太宰治の方へ歩き出した。
尾崎紅葉は何かを言いかけようとしたが、太宰治が人差し指を口元につけていたから何も言わなかった。

そして彼女がエレベーターに乗る時、太宰治が口を開けた。

「そう言えば君の主、今は君がいない状態で殺しやすいけど、どうなったのかい？」

『…は』
「生きてるといいね」

そう言われ、エレベーターのドアが閉まった。