【文スト】才能なしの政略結婚 (ページ6)

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その瞬間、私は自分のコップを素早く倒した。
水の流れは早く、机の上に広がっては勢いで押し出され、机から水が落ちていた。

「お、お客様…？」

ふと、隣からそんな声が聞こえた。
顔を横に向けると新人さんの動きは固まっていて、心配する震えた声で言っていた。

(あっ、私…自分のミスをこぼしたんだ…)

ミスしたらお父様が許さない。
流石に他人には手を出さないだろうけれど信じてる。
だがもし、もし手を出して怒ったら台無しだ。
それにそもそも私が彼女がミスする場所を見過ごせなかった。

…そんなことを思いつつにっこり笑った。

『あら、ごめんなさい。
緊張してこぼしてしまったわ。ポケットにあるハンカチを下さる？』

「は、はい！」

新人さんはお姉様のコップを置いた。
＿＿コップは倒すことはなかった。
私に夢中で緊張することを忘れてくれたようだった。

そして、恐れながらもピンク色のかわいいハンカチを貸してくださった。

『ありがとう』

受け取る時もにっこり笑顔を向けて、机の上にある水を全て私の服の上に落とした。
ハンカチも水を吸ってくれるが、ある一定しか吸えない。
いちいち拭くのも時間の無駄_なら私の服に吸い込ませればいい。

(時間を取られちゃダメ)

私の両親は待たされるのを何より嫌いだ。

「「「「！？！？」」」」
「「…」」

(早く、綺麗に…)

机の上がある程度水が無くなると、新人さんはハッ！と我に返ったのか私の腕を掴んできた。
思わず腕を止めると、もう1つハンカチを取り出して、私の服に強く押し当ててきた。

「な、何してるんですか！？せっかくのお綺麗なお洋服が！！」

『嗚呼、いいんです。
そんなことより貴方は私の両親にも冷水をお願いしますね』

私はいつも通りそう言った。
部屋の音は私が水を動かす雫の音だけ。
新人の彼女は固まってしまい、思わず急かしてしまった。

『ボケっとしてたら雰囲気が悪くなります。早くしてください』
「は、はいっ！」

彼女はそう言って、私に目線を向けながらも、両親に冷水を置いてくださった。
気になるのか、緊張は消えていて倒さずに置いているようだった。

(良かった、彼女が赤っ恥を受けなくて)