【文スト】才能なしの政略結婚 (ページ34)

今日:15 hit、昨日:3 hit、合計:92,519 hit

34 ページ34

「はぁ……」

彼は大きくため息を付いた。
その深いため息は、呆れられた時のため息だ。

自然と、私の視界はじんわりと歪んでいった。
目の前に見える机が歪み、ぽたぽたと雫が適当に机の上に散らばった。

(ああ、死ぬ、死ぬｯ、死ぬ！)

「顔を上げろ」
『はい…』

バッ！と顔を上げると、彼の輪郭が見えた。
涙で上手く彼の顔が見えない。

すると私の頬に手が添えられ、涙を退けられた。
…表情が見え、その顔は怒っていた。

「君はすぐに謝る癖を治せ」
『はい』

「それから、今のはわざと困らせた」
『………はい？』

言葉を理解するために少し黙りんで、私の眉が下がった。
自然と彼を見ると彼はもう怒って無かった。

(どうして？
何故そんなことを…？)

分からない。
でも、親切にしていただいていることは分かる。
すると彼は逆の手も私の頬に添えて涙を取ってくださった。

「自己肯定感が低いことは悪いことじゃない。
だが、こういう時は質問をするんだ」

『し、しつもん？
…この、私なんかが？』

＿＿＿だって今は私に非がある。

1善だと確認しなかったこと。
甘えてしまったこと。
すぐに状況に対応できなかったこと。

すぐに自分の非は出てきた。
目線を少し落とすと、無理やり顔を引っ張られた。
＿目が合うと彼は強い瞳で口を開けた。

「君はエリスの付き人、言わばメイドだ。
君より上の立場はエリスと首領しか居ない」

『…で、ですが…』

(私は誘拐された身)

いくらエリス様のメイドになって、上の立場になったとしても、すぐ切られる身。
私よりいいメイドなんて何人いるか。

そう言おうと目線を合わせると彼は"また"怒っていた。
真っ黒な瞳が見えて、言葉を失った。

「言い返すつもりかい？」
『い、いえ…』

「はぁ…まぁ少しづつ覚えればいい」

そう言って彼は私の頬から離れ、目の前の椅子にドン!と座った。
そして私を見ては「質問するんだ」と強く言ってきた。

(質問…)

そんなことしたことがない。
それになんて言えばいいか分からない。

＿頭が回らない。

(ただここで黙ってたら何もならない！)

『だ、太宰様！！』