【文スト】才能なしの政略結婚 (ページ22)

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「嗚呼、居るよ」

森鴎外がそう言えと、襖のドアがｻｯと開いた。
そこに居たのはうっすら笑顔を浮かべているお父様お1人だけだった。

「良かったです。中々戻らないので不安になりまして。
皆様もここにいたようですね」

そう言って私達の方に目線が向かれた。
そんな目にエリス様と太宰治は不機嫌になったらしく、雰囲気が悪くなった。

(あれ…お父様が来ただけなのに空気が重い…)

今まではそんなこと無かったのに。

内心驚いていると、お父様は私を呼んだ。
サッと顔を上げると目を真っ黒にして、私をじーっと観察するように見てきた。

(嗚呼、この人には逆らえない…私なんぞの人が)

「失礼なことしてないだろうな」
『……は、い…』

かすれ声でそう返した。
お父様の前では上手く声が出ない。
…そんな様子を見て、お父様は深くため息を着き、森鴎外に両手を合わせてヘラヘラ笑い始めた。

「すみませんねぇ。
顔も醜くて礼儀も中々身につかず、出来損ないなんですよ」

『…出来損ないで、申しわけありません』

私は顔を伏せてそう言った。
…そう、私はお姉様のように器用に何もこなせない。
出来損ないなのだ。
腕の中でエリスが口を開けようとしていたので、静かに手で抑えた。

(ダメだよ)

あの人には叶わない。
それが誰であっても。
…最後に私に来る被害が大きくなるだけならば何もしないで。

「……A…」
『……』

「さて、森様、向こうで尾崎様が待ってますよ」

お父様はこの部屋から森鴎外を退かせたい見たいだった。
ニッコリと貼り付けた笑みは変わらず。

…私が上手く太宰治を落とすように見えたのだろうか？

すると森鴎外もニッコリ笑った。

「お断りしておくよ。あと尾崎くんにも言っておいてくれ。
後で来てくれと」

「ですが…」

「私に2度、同じことを言わせる気かい？」
「……承知しました」

お父様はそう言って、下がって行った。
ﾊﾞﾀﾝ…とドアが閉まり、遠くに行く足音を聞くと私は深くため息をついた。

まだ少し体が震えている。

「大丈夫かい？Aくん」

ふと、森鴎外が私に駆け寄ってきてそう言ってきた。
彼の目を見つめると優しい目をしていて、心配して下さっているんだろう。

『私のことなんかで、お手数をかけて申しわけありません…』