【文スト】才能なしの政略結婚 (ページ11)

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「でも、君は『まずい』と言わなかったかい？」

ふと、森鴎外はそう言ってきた。
どこか薄く笑っている。
まるで、私の心を見透かされているように見えて気持ち悪い。

(…でも、こういう時はﾞあえてﾞ相手の目を見る)

怖いけれど、彼の目を見つめた。
そして仮面に仮面を被り、強くにっこり笑った。

『きっと空耳ですよ』
「へぇー、私の言葉が間違いだったと？」

彼がそういった途端、部屋の空気がものすごく重くなった。
ﾋﾟﾘﾋﾟﾘ…と殺気が肌に当たり、誰も言葉を言えない状況で、私に皆の視線が向いた。

『はい。だって私は言ってないですから。
こんな美味しい高級店に綺麗な女将さん、文句のつけ所なんてありますか？』

そう言い返した。
視線を絶対外さず、強くそういうと、彼は楽しそうに目を細めた。

「…うふふ、そうだね。私の空耳のようだ。」
『ええ。おつかれになっているのならお休みになられた方がお体に負担がかかりませんよ』

「善処するよ」

そう言って、私はもう一度料理に手をつけた。
礼儀を知らない私は、出来るだけ背筋を伸ばし美しく見せた。
他人に見られていることを忘れず、食事を口に入れた。

(う、んー…味濃い変わらない…)

心の中で思いつつも、料理を口に入れ続けた。
じーっと見てくる森鴎外の視線を騙すように美しく食べた。

「…」

＿＿
＿

いつの間にか、皆様も料理を食べていた。
しばらく待つと皆様も食べ終えて、いつもの女将さんと新人さんが襖から出てきた。

『！』

新人さんは私に向けて微笑んでくれて、手の先も唇の先まで震えては無かった。
いつも通り…とでも言うように丁寧に落ち着いて片付けて下さった。

できるだけ取りやすいようにまとめたのを気づいて下さったのか、サラッと持って行ってくださった。

(お手伝いは、変にしない方がいいよね……)