ムラサキ__《N.Ren》 (ページ41)

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ムラサキ__41 ページ41

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お互いの知らなかった部分を
この短い時間で知って、
忘れないように、記憶するように
無我夢中で、愛し合った

「お互い、すっごい砂まみれだね」

Aが笑って言った。

「…余裕そうやん」

「えっ、いや、違くて、あ、ねぇ、ちょっとまっ…」

俺はAの口を塞いだ。
正直俺の方は全然余裕なんてなくて。

夢みたいな時間だった。

「シャツ、下に敷いてくれてありがと。砂まみれになっちゃってごめん…」

Aがシャツの砂をはらってくれる。
俺はシャツを肩にかけた。

「全然やで、ありがとうな」

お互いの顔についた砂の粒でさえ、忘れたくなかった。
全部全部、覚えていたかった。

気づけば夜明けが来ていて、
潮が引いて、道がまた出来ていた。

2人で見た夜明けの紫色の空、
今まで見た空で、1番綺麗だった。

きっと今頃
神宮寺も、Aの両親も
Aのことを探し回っている。

戻らなければいけないって、分かっていた。

でも、今だけは、
Aと二人でいられるこの時間のことだけを
考えていたかった。

「……ありがとう、永瀬くん」

Aが言った。

「俺の方こそ、ありがとう」

そう言って、俺たちは
紫色の空の下、砂浜の道を歩いて戻った。

チャリの所に戻ろうとした時、
目の前に数台の車がとまった。

「A…！！！やっと見つけた…！」

車から、神宮寺とその付き人だろうか？
数名が降りてきて、Aを囲んだ。

神宮寺は俺の方を睨みつけ、
Aの方を見て

「……帰るよ、A」

そう言って、Aの手を引っ張った。

Aは俺の方を見て、

ニコッと、笑った。

多分、今までで1番分かりやすい
完全な、作り笑いだった。

そのまま、Aは神宮寺に手を引かれ、
車に乗って、行ってしまった。

俺は、夢から覚めたかのように
力が抜けてしまい、
膝から崩れ落ちた。

「…好きや、大好きや、行かんでくれ、A…」

最後に交わした言葉は、「ありがとう」で、

結局君に直接好きだと言うこともできなかった、
言葉にするのが下手くそな俺を許してくれ。