ムラサキ__《N.Ren》 (ページ37)

今日:5 hit、昨日:9 hit、合計:68,436 hit

ムラサキ__37 ページ37

こんなに自転車を全力で漕いだのはいつぶりだろうか。

「はァ…はァ…着いた…」

俺は深く息を吸った。
この心臓の鼓動の大きさは、
息切れのせいか、緊張か。

Aが、公衆電話の近くに立っているのが見えた。

「A……！」

俺が名前を呼ぶと、Aが振り返った。

そして、こっちに向かって走り出した。

俺もAの方に向かって走った。

俺達は、そのまま何も言わず
お互いを抱きしめた。

言いたいこと、沢山あったはずなのに。
聞きたいこと、沢山あったはずなのに。

俺達は、お互いに言葉にするのは下手くそで。
でも、気持ちは体を突き動かす。

「永瀬くん……」

しばらく抱きしめ合っていた俺達
先に言葉を発したのは、Aだった。

「………逃げたい」

Aが、顔を上げて俺の目を見た。

「………どこでも連れてくで」

俺はAの手を引いた。

Aが何から逃げたいのか、
俺には明確には分からなかった。

神宮寺からかもしれない、親からかもしれない、
自分からかもしれない。

でも、そんなの何でも良かった。

一緒に逃げる相手に、俺を選んでくれたこと。
それだけで、俺は良かった。

俺たちはまだ高校生で
行ける距離なんて限られていて。

でも、大事なのは距離じゃなかった。

2人で居られるなら、どこだって良かった。

俺はAをチャリの後ろに乗せて走り出した。

辺りは、もう真っ暗だった。