蝶は鳥にはなれずとも 3 (ページ38)

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現実的。ページ38

『ただいま。』
「遅かったな、何かあったのか。」
『帰り道に、迷っただけよ。それにしても、池君って思っていたより阿呆じゃなかったのね。』

周囲に人も居るので、後半はほぼ吐息レベルで小声だ。
清隆もそれに合わせ、小さく返事する。

「あぁ。自分で状況を把握して、冷静にもなれるんだな。俺なんかより、余程…」
『凄いって？冗談やめて、笑い死にしちゃうわ。』

夕闇が広がるのを良いことに、私は嘲笑を浮かべた。

『清隆より上なんて、居るわけが無いじゃない。』
「…」

清隆は、何も答えない。
ここで返事をすれば、万が一聞かれた時に弁明出来ないからだ。
私もそれを分かっているから、無視ともとれるそれは大して気にせずため息を吐いた。
ふと、平田君が手を上げて発言する。

「この特別試験、最後まで信頼しあって進めていきたいと思う。試験終了時、300sポイント中120sポイント以上残せるか…それが目安になる筈だよ。」
「180sポイントも使うつもりか？」

幸村君がそう口を挟むと、平田君はその反論を分かっていたように滔々とポイントの内情を語り始めた。
その内容を頭で整理しながら、私は清隆と鈴音さんの会話を聞く。

「どう思う？」
「現実的ね。私も似たような数字を、計算していたけど。」
「平田に、教えてやったのか？」
「まさか、冗談でしょ。」

うん、それは流石にしないと思う。
隣で苦笑いしていると、視界に見覚えのある後ろ姿が写った。
ここには、居る筈の無い人。
顔を腫らし、俯く少女。

『ねぇ、清隆。』
「何だ。」
『あそこに座ってるのって、Cクラスの伊吹さんだよね？』

私が指さした先には、隅っこで岩に腰を下ろしている伊吹さんの姿がある。
清隆も、私が疑問に思うことを分かっていたようにすぐに答えてくれた。

「あぁ。枝拾いの帰りに、座り込んでいる所を見かけた。山内が、クラスのところに来ないかと誘ってな。」
『そんな声がけに、素直に応じる子には見えないけれど。』
「何かあったから、そんな意外なことしたんだろ。」
『Cクラスか…龍園君辺りが、1枚噛んでいそうね。』
「だろうな。」

ふと、輪の中心で平田君が皆を励ます声がけがあった。
よく分からないが、恐らく皆が納得する形で結論が出たのだろう。
ならば、私達はそれにただ順応し時にそれを軽くいじれば良いだけだ。