【ヒプマイ】月が満ちる時に。2

story90 side:you ページ45

一郎の顔に明らかな失望が浮かんでいた。

それはそうだ。

どんな言い訳をしても私は彼を騙してきたことに変わりはない。

私の身体を離さない左馬刻を振りほどいて『一郎、』と短く声をかける。



一郎｢…｣


『あのね、いち』


一郎｢わりぃ、A。今から仕事なんだ。

…もう行かなきゃなんねぇから｣



一郎は私の声を遮って悲しそうな目で背を向けた。

待って、一郎。

話をさせて。私は…一郎に正直に話したいの、

届かない気持ちを伝える為に彼の肩に手を伸ばしかけたその時。


右腕に強い力がかかった。



『…左馬刻、』


左馬刻｢行くな。

今日はアイツに会うために外に出たんじゃねぇだろ。

その格好も俺様のために準備してきたんだろうが。

約束は約束だ。どんな事情も関係ねぇ。

今日は俺様と出かける。いいな｣


『でも…っ』


左馬刻｢…安心しろ、帰すつもりはねぇなんていわねぇから｣


『…』


一郎｢…二郎、三郎。行くぞ｣



一郎と二郎、三郎が視界から消えていく。

19歳の大きな背中が暗い影を落としていた。



『一郎…』


左馬刻｢…行くぞ、A｣



私は、ただ左馬刻に引かれるままその場を後にした。








〜2時間後〜
一郎、怒ってるよね。

二郎もきっと動揺してるはずだし…何よりびっくりしてるよね？

あの3人はBuster Brosで、きっといろんな手段で近づいてくる人もいるはずだし…

私も同じようなものだよね…

どうしよう。謝りたい。謝らなきゃ。



左馬刻｢…い｣



今日、家に行っても大丈夫かな？

突然は困るかな？今から仕事って言ってたし。



左馬刻｢…い、…｣



一郎…二郎、ごめん。

本当に。

こんなことなら最初っから言っておけばよかっ



左馬刻｢いい加減にしやがれ！A！｣


『左馬刻、…ごめん、ぼーっとしちゃってたね』


左馬刻｢“ぼーっとしちゃってた”だ？

どうせあのダボの事考えてやがんだろ？

…もう我慢できねぇから聞くがアイツとはどういう関係なんだ？

随分仲が良さそうだったが｣


『…一郎達とは友達なの。

…だけど私、女だってこと言ってなくて、』


左馬刻｢ダチ？…そうかよ。

…A、1つ言っておくがなぁ、俺様は今とんでもなく腹が立ってんだよ。

あのクソ野郎とお前が知り合いだってことに既に腹の虫が治まらねぇのに今俺様の目の前にいるAがアイツのことばっかり考えてることに腹が立ってしょうがねぇ。

俺様は今日、お前を帰さねぇつもりだったのに｣

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