【ヒプマイ】月が満ちる時に。2

story84 ページ39

『お客様、危ないですよ。ソレ下ろしていただけませんか？』


女性｢あんた、なんなのよ！！

私と幻太郎の世界を邪魔しないでよ！｣


『先生との世界？』



先生のお知り合いなのか、と思い先生を見ると私の問いに答えるようにフルフルと首を振る夢野先生がいた。



『お客様、先生のファンですね？なぜこんなことを？』



あの体勢から思うにナイフの使い方には慣れていない。

凶器を持っている恐れからなのか体が震えている。



女性｢…腹立つのよ｣


『何にですか？』



会場のスタッフのおかげで既に他のお客様は避難されている。

ただ、先生は場所的に避難が難しくて私の後ろに控えてもらっていた。

先生の様子を確認すると…

え？なんかすごく楽しそうな顔してる…？

まさか小説のネタになるとか思ってる…？



女性｢幻太郎の美しい文章が私だけのものじゃないなんて腹立つの！

幻太郎をいちばん理解しているのはアタシ！

幻太郎の本を読む資格があるのもアタシだけなのよ！｣


『それで？』


女性｢それなのに…幻太郎は他のやつのためにまでその文才を文字にして著さなきゃいけないなんて可哀想。

…だからその手を使い物にならなくしてやれば幻太郎もやっと苦しみから開放されるでしょ？｣



…何を言ってるのかさっぱり分からないです…

えーと、つまりそれって自己中でしょ？



『わかりましたから、落ち着いてください』


女性｢わかったならどけてよ！｣


『いや、そういうわけにはいきません。

僕も乱暴はしたくないのでナイフを下ろしてください』


女性｢嫌！｣


『…はぁ。なら仕方ありませんね』


女性｢なっ…｣



女性が声も発せぬ時間のうちに彼女の手からナイフを奪う。

カラン。

私が投げ捨てたナイフが乾いた音を立てて床を転がった。

あぁあと小さく悲鳴をあげて女性が座り込む。



女性｢っぁ、ああ！｣


『もう観念していた…先生！？何を！』



私が話している途中で視界の隅に映ったのは夢野先生が女性に歩み寄る姿だった。



幻太郎｢いつも小生を応援してくださってありがとうございます。｣


『せ、せんせ』


幻太郎｢いつも読んでくださっていたのですね、小生の本を｣


女性｢はっ、はい！！｣


幻太郎｢これからも、応援よろしくお願い致します｣




夢野先生は彼女の手を取り微笑んだ。

彼女は涙を流し、はい、と頷いた。



『…』





その後、彼女は大人しくなり無事警察に回収された。

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