しらない方が幸せなら。 ページ22
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「……んじゃ、まずはデートからだな!」
岩泉の高らかな声が響く。
心が喜びと少しの疑問で満たされている私に、その一言は強烈すぎた。
「は」
「……え」
思わず、は、なんて零した私の後に、え、と間を置いて言う花巻。
そりゃそうだよ。
付き合って、すぐまずはデートからだなんて。結構急すぎやしませんか?付き合うことすら初の私に、そこまで大きな壁を与えるつもりですか?
「デートって……うちら、たった今付き合い始めたんだよ?」
「だからだろ?」
疑問に疑問で返してくる奴。なんだこいつ。なんて思ってしまったのは仕方がないというものでしょう。
いや、今付き合い始めてすぐデートって当たり前なの?
え?
世間はもうそんな加速してんの?
「お互い……いつ死ぬか分かんねえんだから」
ドクリ。
下を向いて、岩泉が呟いた。
嗚呼、そっか。
私、死にたくて死にたくてたまらなかったはずじゃん。
そうだった。
思い出した。
でも今は。
死にたいなんて、思ってもいない。
「は、死ぬって、んな大袈裟な。ゆっくりからでもいいんじゃ、」
「いいよ」
「……湯川?」
ねえ、花巻。
花巻は知らないだろうけど。
人っていうのは、案外他人を大切にできない生き物なんだよ。
だから、私は、花巻を好きになれたことを、後悔していない。それでも岩泉が、まだ私が死ぬと思っているんだったら。
協力してくれた岩泉に、最高の感謝を。
こんな死にたがりでも、死なずに幸せになれたよって、報告したいから。
「デート。今度の日曜日に。ショッピングモールにでも」
ショッピングモールなんて、人通りは多いし同級生に見つかる可能性が最も高い。
でも。
これでもイケイケ女子で通ってんだ。表面上だけなら、皆おめでとうくらいは言ってくれるさ。
裏で何言われたって。
人間、いつか死ぬんだから。
気にするだけ、その時間が勿体ない。
「……分かったよ。でも悪い。一緒に帰るとかは出来ねえんだ。放課後は用があるから」
「毎日?」
「毎日」
言い切った花巻が、少し鬱陶しかった。
毎日ある用なんて、疑わざるを得ないから。
でも。
好きだと言ってくれただけ、私にとっては充分すぎることで。
こんな私に好きと言ってくれた花巻のことを、更に好きになるから。
岩泉が少し眉を下げている理由すら、知ることは許されなかった。
知ったら、更にグチャグチャになる気がして。
踏み込んでは、いけない気がした。
かくしごと、それはきっといけないこと。→←透明な水のように。
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あいうえお - すみません他の作品のパスワード教えてほしいですー! (2023年2月18日 22時) (レス) id: 8655edc292 (このIDを非表示/違反報告)
如月(プロフ) - たまたま見つけたこの小説でしたが、読んでよかったなあと思いました。私も夢主ちゃんと同じ感じで何もないのに死にたいとかめっちゃ思います。だからこそ共感できるし、なんか同じ気持ちの子がいるんだなって嬉しくなりました。好きです! (2021年6月19日 6時) (レス) id: 85ad8c6978 (このIDを非表示/違反報告)
お水。(プロフ) - まーちさん» いえ!こちらこそ読んでいただき本当にありがとうございます!感動したと言っていただけて本当に嬉しいです。コメントまで残して頂き、励みになります!本当にありがとうございました! (2020年12月29日 18時) (レス) id: 5c541d7487 (このIDを非表示/違反報告)
お水。(プロフ) - まふにゃさん» 歌詞だったんですね!気付きませんでした!今度検索してみますね!コメントありがとうございます! (2020年12月29日 18時) (レス) id: 5c541d7487 (このIDを非表示/違反報告)
まーち - こちらの作品とても感動しました。少し、少しだけ感情が薄い私がなきそうになりました。こんな素敵な作品を作っていただきありがとうございます。 (2020年12月10日 21時) (レス) id: 65334a4eed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お水。 | 作成日時:2019年1月12日 17時