変わっていく日々で ページ19
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「真冬、早くー」
「かなたさん、はやいっ」
息を切らしながら、前を走る彼を追いかける。昼過ぎの東京は、雲一つない晴天で心地よい。
「マジで体力ないな、お前」
やっと追いつき呼吸を整えていると、呆れた顔が仁王立ちしていた。
「彼方さんが速いだけです!それに、まだ時間ありますから!」
「え、2時半じゃなかったっけ」
「3時に変更になったって言ったでしょ!」
そうだっけ、ときょとんとしている彼方さんに、僕はため息を吐く。
こういう時だけ頼りないんだから…
「あ、ラインだ」
「誰からですか?」
「彼女からだけど」
「はぁ!!?僕のことは捨てたんですか!?」
「うるさい」
喚く僕を無視して、スマホの画面に目をやっている彼方さんをじっと睨む。すると、観念したように「分かったよ」と言い、スマホをしまった。
「大体さぁ、お前のボーカル結構人気だぞ?ギターもできるし……作ろうと思えば作れるだろ、彼女」
鬱陶しそうに言って、彼方さんは前方に視線を移す。ふわり、と、吹いた風が、彼方さんの前髪を掬った。
その風は、あの海風を思わせる。
「……僕は、いいですよ」
彼女と歩んだ、一欠片の思い出を、瞼の裏に投影する。
いつまでも色褪せない、幸せを形作ったような、完璧で未完成なフィルム。
「まあ、僕が誰かと付き合ったら、愛されすぎて大変なことになっちゃいますからね」
「逆だろ」
ドヤ顔で言ってやったのに、軽くあしらわれ、「そんなことないですぅ!」と否定する。
すると、さっきと同じドーンで「はいはい」が返ってくるもんだから、もう知らないと不貞腐れる。
「ごめんごめん」
「はっ、もういいです。今日のMC振りませんから」
「…お前喋れんの?」
「う、うるさいです!」
僕がコミュ障陰キャなのを知っていてそんなことを言うのだから、彼方さんは性格が悪い。今だって、僕を見て大笑いしてるし。
「あ、電話だ」
怒る僕をよそに、彼方さんは震えているスマホに気が付くと、通話ボタンを押して話し始めた。
「また彼女ですか!」
「真冬!今日やっぱり2時半からじゃねーか!」
「え?」
誰と話してるのかと思いきや、突然僕に振り返って大慌てでとんでもないことを言う。
「向こうの人全員いるって!」
「うそ…」
「走るぞ!このバカ!!」
「すみませんんん!!」
謝りながら、僕たちはまたさっきと同じ構図で走る。
瀬奈、見てますか?
僕、夢叶えたよ。
辛いこともたくさんあったけど、頑張って乗り越えた。
君と歩いた時間、一秒たりとも忘れてないよ。
君を愛せて、幸せだった。
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作者名:Ir | 作者ホームページ:http://manaaa
作成日時:2023年2月18日 20時