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私の朝は早い、と言っても仕事が遅いから早く家から出ざるを得ないだけだが...。

昨日は久しぶりに酒を飲んだと言えど、ペース配分には十分気をつけていたからか二日酔いの症状は全く見られない。

いつものように探偵社に向かうため、身支度をし、外にちょうど出た所だった。

ガチャ、と隣の部屋でドアの開閉音がし、横に振り向けば、きょとんとした顔の敦くんと目が合った。

彼はすぐいつもの眩しい笑顔を取り戻し、

「おはようございます!Aさん...!今から出勤ですか?」

とこてん、なんて可愛らしいオノマトペを頭の上に浮かばせながら問う。

「そうだよ。敦くんも、かな?」

「はい、昨日の太宰さんの件で...」

苦笑いでぽりぽり頬をかく彼を見て、あぁと感が鈍い私ですら察する。確か昨日は敦くんは太宰さんとの仕事だったはず。

「昨日、依頼が終わって探偵社にさあ戻ろうってなった時に太宰さんが近くの川に飛び込みに言っちゃったんですよね。」

おかげで報告書も、後から頼まれた書類整理も終わってなくて今日も始業時間前の出勤ですぅ、なんてガックシと言ったように肩を沈めた。

どうやら昨日が災難だったのは私だけではなかったらしい。ひとつ違う点と言えば、太宰さんの直属の後輩として働く彼はその災難が日常茶飯事ということだけ。

そう考えると目の前の小さくなった彼が、雨に震えるか弱い子犬のように思えてきた。朝の幻覚か、「拾ってください」と書かれた箱まで見えてくる。

何処か母性を擽られるその行為に、我慢ならず、朝にも関わらず大声を出してしまった。

「書類整理くらいなら手伝うよ!始業時間までまだ時間あるし!」

そうすると、彼は涙目で、でも先程より幾分か目の中を輝かせて

「本当ですか!?ありがとうございます!」

綺麗な直角を作ったお手本のようなお辞儀を見せた。
また何かあったら是非頼ってくださいと左手の拳でトントンと胸を叩く彼に、くすくすと思わず笑ってしまえば

「なんで笑ってるんですか!僕、真面目なんですけど!」

と頬をふくらませて怒る。
さっきまで落ち込んだり、笑ったりしていた筈なのに今度は怒っている表情豊かな敦くんに、こんな弟がいたら毎日楽しいだろうなだなんて。

小走りで緩い坂道をのぼり、置いていった敦くんの方に振り返る。

「ふふ、わかったわかった。」


馬鹿にしてますよね!と遠くで叫び、小走りで坂を昇る彼から、広い空にピントを合わせると、雲ひとつない青空が広がっていた。

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無農薬いちご(プロフ) - よかったです!わざわざレスしてくださって本当にありがとうございます! (2023年3月12日 20時) (レス) id: 796a8b7360 (このIDを非表示/違反報告)
音海しあ(プロフ) - 無農薬いちごさん» ちゃんとハピエンなのでご安心くださいませ....!!!! (2023年3月12日 20時) (レス) id: 1f4e19f4d2 (このIDを非表示/違反報告)
無農薬いちご(プロフ) - 雲行きが怪しくなってきましたね… (2023年3月12日 19時) (レス) @page20 id: 796a8b7360 (このIDを非表示/違反報告)
音海しあ(プロフ) - 星月夜さん» 星月夜様、コメントありがとうございます!比喩の部分が私自身のこだわっていたポイントだったので、そのように言っていただけて嬉しいです! (2023年3月1日 6時) (レス) id: 1f4e19f4d2 (このIDを非表示/違反報告)
星月夜(プロフ) - 表現が素敵で凄く好きです。 (2023年3月1日 0時) (レス) id: 8be47c094d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:音海しあ | 作成日時:2023年2月26日 10時

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