お月様が見てる2 ページ9
駅から5分のカフェの裏側。
奥の駐輪場に自転車を停め、重い鉄の扉を開く。
中から声が聞こえた気がして足を止めると、
勢いよく誰か飛び出してきた。
「わわわっ。止まんない、止まんないって」
顔から倒れそうになるから、咄嗟に体を支える。
「大丈夫か?」
「あっ、ガヤさん!」
よろよろと体を起こしたのは、ゴテゴテの飾りがついた服を着た宮田だった。
アリガトォ、と泣きそうな声を出す。
「そのカッコ、何?」
「今日届いた衣装。試着してたら、タマに怒られちゃって」
閉じた扉を開けながら宮田が言う。
「後退りしただけだったんだけどさ。
通路が狭くてキャスターに足引っ掛けてバランス崩したら、閉じてたはずのドアが開いてわーって。
ガヤさんが助けてくれなかったら、顔からヘッスラするとこだったわ」
開いたドアの向こうにはラックに吊るされた衣装が連なっていて、人ひとり通るのも大変そうだ。
衣装を手で避けながら宮田の後について入る。
どう見ても多すぎるだろ、この衣装…
「タマぁ、もう少しで王子が顔ケガして姫が悲しむところだったぞ!」
ロッカールームの中にいるだろうタマに向かって言うと、中から出てきたタマは宮田の胸ぐらを掴んだ。
「その衣装ダメって言ったよな」
「う、うん」
「アレ着ろって言ったの聞いてた?」
「聞いてたよ。でもさ、こんな時ぐらい王子になりたいじゃん。」
ぐえ、と宮田の声が漏れる。
タマの腕が腹の辺りに見えるからそういうことなんだろう。
「モテなくていいんだよ。宮田は。」
オレと客どっちが欲しいかもっかい考えろ!
小さい声だけど、聞こえるよ。タマ。
いつもの痴話喧嘩みたいだ。笑
宮田のロッカーには、白いシャツと黒い神父らしき衣装がかけられている。
これは確かにモテないわ…
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作者名:lettuce | 作成日時:2022年9月11日 2時