お月様が見てる 13 ページ40
現実は残酷だ。
北山はオレに触れられたくないとわかってしまって、少なからずショックを受けた。
そのままロッカーから荷物を取って、そのままチャリに乗って帰ってしまいたかった。
なのに。
オレはまだ海賊で、ロッカールームから出られずにいる。
夜遅いとはいえ、さすがにこの格好で自転車をこぐ勇気はなかった。
そして。
隣には北山のロッカー。
まだ、事務室から戻っていない。
どこかで聞いたことのあるフレーズが頭に浮かぶ。
♫別れた人に会った 別れた直後に会った
この後の自分がそうなるのが嫌で急いで着替えているのだが。
「何回目だよっ」
衣装の小さなフックを外していくが、イライラしているせいか、いつもより装飾の紐に引っかかってしまう。
「ここ絡まってるからじゃねぇの?」
後ろから声がして、ジャケットの背中に気配がした。
「北山」
「借り物なんだから、大事にしろよな」
後ろの縺れを解いただけでなく、ジャケットを袖から抜いて差し出した。
「あのさ」
一拍おいて続ける。
「誤解されてる気がしたから、いちお言っとく」
「誤解?」
何を…
「オレがイヤだって言ったこと。
おまえがイヤなんじゃなくて、その…」
北山は軽く拳を握る。
「おまえにあんなこと…されたら、照れてどうしようもないのに、人前で、しかも、写真撮られて、オレ…ホントに恥ずかしくて…」
「北山」
わざわざそれを言いに来てくれたのか。
たまらず目の前の赤ずきんを正面からぎゅっと抱きしめた。
「わっ、ちょ、藤ヶ谷!」
すっと北山の体を離す。
「オレが抱きしめるの、イヤ?」
「な、何だよ、いきなり訊かれたって」
「イヤ?」
目を見てもう一度訊く。
「人前では、イヤだ」
北山は目を逸らす。
「誰もいなかったら?」
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作者名:lettuce | 作成日時:2022年9月11日 2時