渡る世間に 15 ページ26
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「ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"
チューしたいっっっ!」
「ぶはっ…ごほっ、ゴホゴホ……」
玉森の唐突な発言にむせ込む。
まかない食べ終わってなかったら、水じゃなくてカレー吹き出すところだった。
「ちょっとミツ、何やってんの!」
汚いじゃん、とその辺にあったダスターをくれる。
「や、だって、おまえ…」
とりあえず口まわりを拭う。
「チューしたいとか、突然そんな魂の叫びで言われたらびっくりするって!」
テーブルに飛び散った飛沫を拭きながら玉森を見ると、
「だってしたいんだもん」
なんて、口をとがらかしている。
「ケンカでもした?」
「してない」
「じゃあ、何よ?」
「……言いたくなっただけ」
あきらかにそんなはずはない玉森だったが、オレは、そ?とだけ返した。
まかないの食器をキッチンに返して戻ると、スマホでゲームをしてた玉森が顔を上げた。
「ミツはさ、したくならない?」
「何を?」
「チュー」
…その話、終わってなかったのか。
「したくないこともないこともないこともない」
「何それ。どっちよ?」
まぁいいや、と玉森は休憩を終えてフロアへ戻っていった。
「いいのかよ」
ポケットからスマホを取り出していじるが、心ここに在らずなので、ステージクリアできるはずもなく。
チューしたくないのかって、
誰と?
不意に今朝の夢の残像が頭をよぎる。
あのまま夢が続いていたら…
『好きだよ』
オレはどうしただろう。
時計を確かめると、スマホをポケットにしまって、赤いフードをいつもより目深に被った。
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作者名:lettuce | 作成日時:2022年9月11日 2時