天高く (ページ8)

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秋の空⑦ ページ8

「ねぇ、ミツ」
　最近、あの人見ないね。
　
　玉森がすっと隣にきて言う。

　「うん、そだな」

　オレは氷の補充をしながら返事をする。

　「ガヤさんいないとやっぱ来ないんだ」

　正確には、早い時間に覗きにきて
いないとわかると入ってこない、だ。

　製氷機からザクザクと氷をバケツに入れて
バケツを持ち上げる。

「ミツもゆっくりできていいね」

　何で？

　玉森の方を振り返ると、

「ガヤさん守るのに必死だったもんね」

「そうかぁ？」

「だってさ、あの人来てる時、
　お客さんのとこちょこまかちょこまか
　動き回ったじゃん」

　丸いのの中走ってるハムスターみたい、と玉森は笑う。

　誰がハムスターだよ！

「噂をすれば…だね」

氷の補充を終えてフロアへ戻ると、
カフェエプロンの紐をキュッと結びながら
藤ヶ谷が入ってくるところだった。

「残念。
　オレ今日ガヤさんと入れ替わりなんだ。
　ハムスター見たかったな」

　だから、オレ、ハムスターじゃねぇって。

「玉森！上がる前に倉庫から米持ってきて」

　店長がキッチンの奥から玉森を呼ぶ。

　まじか、と小さな呟きを残して玉森は
倉庫に入っていく。

フロアに視線を戻すと藤ヶ谷と目が合った。

とっさに目を逸らす。

やべ。
目、逸らしちまった。

　藤ヶ谷は何事もなかったかのように
席の片付けに向かった。

気づかなかった、かな？