天高く (ページ3)

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秋の空② ページ3

次の日は、オレも藤ヶ谷もオープンから店に出ていた。フロアの簡単な清掃や諸々の補充をして開店時間を迎えた。ドアを開けると、店の外で列を成していた客を順に席へと案内して行く。

「満席になりましたので、こちらでお待ちください。」

　オレがそう告げた相手は、昨日閉店まで居座った彼女だった。彼女の視線の先にはアイツがいるんだろう。
　チラと店内に視線を移すと、藤ヶ谷はキッチンから料理を運んでいるところだった。

今日も、持久戦か…

　彼女が居座るようになったのは、ひと月ほど前だったか。初めのうちは、誰かと店に来ていた。普通に食事をして帰ったり、お茶を飲みに来たりしていたんだと思う。やがて、一人で来るようになり、少しずつ滞在時間が長くなっていった。その程度なら他の客にもあることだが、彼女の場合、何がややこしいかと言うと

「きゃっ。」

「あっごめんなさい。大丈夫ですか？」

　これだ。

　座っていた女性客が慌てているところに彼女がペコペコと頭を下げている。そこへやってきた藤ヶ谷は、跪いて落ちていたグラスを拾い上げ、そのままテーブルの女性客に目線を合わせた。

「お客様、おケガなどございませんでしたか？」
「お召し物が少々濡れているようですが、タオルをお持ちしましょうか。」

　女性客が手を横に振った。困っているはずなのに笑顔が溢れているのは、藤ヶ谷の対応が良かったからだろう。ことなきを得たらしい。

　それはそうと、事を起こした本人は入り口に戻るや否や、空いた席に案内されている。
常連の彼女は、店内が見える様に壁側に座るといつものように藤ヶ谷を目で追い始めた。