Act.36 ページ38
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「…仕事に専念したいから?」
話の内容についていけないから、黙っていたひろくんが恐る恐る訪ねる。仕事ももちろんそうだ。やっと声優業にも慣れたのに、誰かと付き合ってるなんて噂が出たら今後の仕事に差し支える可能性がある。
NO NAMEだって、まだライブを出来ていない。あたしにはまだやりたい事がたくさんある。
でも、それ以前にあたしは、
「…好きだった人が、先に死んだらどう思います?」
一瞬で空気が固まった。たっぷり時間を置いて、いやそんなに経っていなかったかもしれない。さすがにこの空気にはあたしもやべ、と思った。
「あー……、ごめんなさい。なんでもないです。」
3人の顔を見ると驚きでまだ固まっている。やべーどうしようと思っていたら鈴村さんが持っていたお酒を一気飲みしてから、尋ねた。
「昔のことか?」
「えー、なんでもないって言ったのに、掘り返します?」
「自分から言ったんやから、ちゃんと言わなあかんで?」
「……はぁ、そうですね。その前にお酒追加させてください。」
こんな話、酔ってなきゃ言えない。
タッチパネルを手に取り、日本酒の熱燗を頼んだ。一応3人にも聞いたら、真守とひろくんはいらないということだったけど、鈴村さんは自分も熱燗を飲むということだったので、お猪口は二つに増えた。
「トイレ行ってきますね。」
お酒が来るまでのこの空気に耐えきれず、ポーチだけ持ってトイレではなく外に向かった。
久しぶりに吸いたいと思ってしまったタバコ。あいつの趣向品だったLARKのメンソール。
一本取り出してライターで火をつける。久しぶりのメンソールの煙の味に、匂いに、胸がざわついた。
(久しぶりにお前の話をするよ。お前が死んでから、誰かに話すことなんてなかったから、緊張するな。
なんで、嘘ついて死んだの…)
吐き出した煙は夜に消えていった。
一本吸い終わって戻ると、お酒が来ていた。鈴村さんは待っていましたとばかりにお猪口にお酒を注いであたしに渡してきた。
「やっと戻ってきたな!ほら!飲むで!」
「…あんまり酔うと真綾さんに怒られますよー。」
「今その話するー!?ちゃうやん!今は俺よりAの話!ほら!」
催促する鈴村さんと話を聞きたくて、でも不安そうな二人の犬(笑)の顔を見てから日本酒を煽った。久しぶりだから喉がアルコールで熱くなる。
「……好きだった人が、病気で死んじゃったんです。あたしに何も言わずに。」
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mameiyiteng3(プロフ) - りるとさん» ご指摘ありがとうございます、早速直させていただきます!申し訳ありませんでした。 (2020年2月14日 17時) (レス) id: a55d9f83ab (このIDを非表示/違反報告)
mameiyiteng3(プロフ) - Riさん» 遅くなり申し訳ありません!ご指摘いただきありがとうございます。曜日が確かに間違っていたので、直して掲載しております。申し訳ありませんでした。 (2020年2月14日 17時) (レス) id: a55d9f83ab (このIDを非表示/違反報告)
りると - act33にある宮野さんの名前の漢字なんですけど守じゃなくて真守なので直した方がいいかと思います。とても面白い作品なので楽しんで読んでいます。 (2020年2月14日 0時) (レス) id: 615da3bcde (このIDを非表示/違反報告)
Ri(プロフ) - act.30くらいで夜遊びの曜日なのですが、安元さんと江口さんが出ていらっしゃるのは、火曜日ではなく月曜日ではないでしょうか?お話、とても面白いです。 (2020年1月26日 11時) (レス) id: 6e0fe8bfcb (このIDを非表示/違反報告)
mameiyiteng3(プロフ) - misteriascatさん» ご指摘ありがとうございます。23話を非公開の状態にしていました…。 (2020年1月3日 21時) (レス) id: a55d9f83ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あきら | 作成日時:2019年12月8日 19時