1 ページ1
_
「お前にとって、生きるとは何だ」
忘れるはずもないこの声。この声は、俺の＿＿＿＿。
聞き覚えのある声がし、式間連司は重い瞼を上げる。目の前に広がる光景…それは、真っ白な空間だった。そこにぽつんと一人の男性が立っている。
男性の顔は霧がかかっていてよく見えない。シキマよりも少しだけ低い身長で、白衣を着ているということしか分からない。けれどもシキマにとっては、その情報だけで十分だった。…いや、声を聞いた時から確信があったのだ。
「久しぶりだな。…いや、君とは
シキマは目の前の""夢""に向かって、そう返す。""夢""は、しらばっくれたように黙っている。心做しか俯いたように見えた。シキマは""夢""に近付き、触れようとする。しかしその手は宙をかく。
行き場のない手をシキマはじっと見つめる。…触れないのか。残念だ。そう思って目を伏せ、短い溜息を吐く。
「…君のことを教えてくれないか。些細なことでもいい。俺が答えるのはそれからだ」
シキマが対話を望んだ。腕を組み、""夢""に何か言わせるまで、自分は意地でも答えてやらないと態度で示す。数秒置いて、""夢""は声を放った。
「………ここは、俺が作り上げた空間だ。俺には以前までの力はない。だからかこの空間は不安定でな。全てのヒトに干渉すんのに一苦労っつーわけだ。っておい何してんだ」
「壁を探す」
""夢""が話している途中で、シキマは背を向けて足早に歩き始めた。おい待て最後まで聞け。""夢""はシキマの背を追いかける。
「壁はあるのか」
「おいおい待て、壁なんてねぇよ」
「あるかもしれないだろう、俺には見えない壁が。見つける」
「壁への執着やめろ。いつの間に壁マニアになりやがった」
と言いながら、""夢""はシキマの手を取って引き止めた。引き止めないと永遠に壁を探しそうだったから。壁マニアってなんなんだよ。""夢""が溜息を吐いたのも束の間。シキマがクルリと振り返り、""夢""の手首を掴んだ。
「おや、今のは俺を知っている発言だな。それに触れた。君に触るのには何か条件が？」
ぐ、と""夢""の手首を掴む手に、強く力を込める。上手いこと誘導されていたことに、""夢""はようやく気が付く。
「顔を見せないのは何故。生きることは何かと聞くのも何故。七年前、突然姿を消したのも何故。教えろ、アレフ」
_
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
