懐かしい匂い ページ30
いつの間にか走り出していたA。
下校途中の角を曲がった所。
ドンッ！
「キャッ！」
KZ「わっと…ごめんなさい！」
盛大な鈍い音を立てて人にぶつかった。
転びかけた腕をグイッと引き止めてくれる。
KZ「大丈夫ですか…？」
「こちらこそ…すいませ…。」
お互いがお互いの顔を認識して気付く。
KZ「A！？」
壱馬の顔を見た瞬間、込み上げるもの。
無意識のうちに抱きついていた。
「壱…ちゃん…。」
震わせてしまった声。
驚いた顔の壱馬。
KZ「…泣いて…んのか…？」
壱ちゃんの匂いがする…
目を閉じて懐かしい気がする匂いを吸い込むA。
KZ「A…？」
抱きついていた身体を離すと、ほんのり赤くなった鼻をすすった。
「泣いてないよ。大丈夫。」
取り繕うように、それでも一生懸命笑って見せた。
「それより、どうしたの？」
KZ「えっ、あ。」
本来の目的を思い出した壱馬。
LINEの返事が無いことを問い詰めようと思って来たのに、すっかり冷めてしまった熱。
KZ「ったく…。元気じゃんか…。」
「え？」
KZ「お前がちっともLINE返信してこないから…。」
「あっ…ごめん…。」
KZ「既読にもなんないし…。何があったのかと…。」
「心配してくれたんだ？」
茶化すような顔で覗き込む。
むくれた壱馬の顔を。
KZ「損した！」
プイッと顔を背ける壱馬にクスッと笑う。
「ありがと…。壱ちゃん。」
穏やかに微笑まれて、照れ隠しにクシャクシャと髪をひっかいた。
KZ「ぶっちゃけるとさ、Aの引っ越し先知らなかったなと思って。」
「あれ。話してなかったっけ？」
KZ「聞いてない。」
肩をすくめるA。
「言ってあるもんだとばかり思ってた…。」
KZ「俺も聞かなかったしな。」
「急がないなら来る？」
KZ「いいの？」
「いいに決まってるじゃない。」
先に歩き出す背中を追いかける。
昔に戻ったみたい…
小さな頃からずっと…
壱ちゃんと…
リクちゃんと…
3人で歩いた…
「そう言えばリクちゃんは？」
KZ「あー…俺がAの心配ばっかしてるから拗ねてる。」
「なにそれ。」
顔を見合わせれば自然と笑顔が生まれた。
壱馬先輩！
背中から聞こえて来る気がした元気な声にハッとして止まった足。
KZ「どした？」
「う…ううん。何でもない。」
振り返る壱馬に駆け寄ると、同じ歩幅でまた歩き出した。
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作者名：mamario | 作成日時：2018年3月31日 7時
