ありがとう -yu-ya.T- ページ25
なんで、
僕じゃないん?
ーーー
ドアの向こうで、Aさんが立ってる。
こんな夜中に買い物袋を抱えて、
"幸せ過ぎて眠る時間も惜しい"
なんて、ふざけながら慣れた様にドアを開け、
僕の部屋に入って来る。
その表情は、誰かを愛する強さに溢れてる。
Aさんの彼氏の遥輝くんは僕の先輩。
そして、先輩の彼女を好きになってしまった僕。
一つ、問題があるとしたら、
そんな僕に気付かずに空いた時間に、
こうやって簡単に僕の部屋に転がり込むAさん。
Aさん？僕も男やで？
遥輝くんの事を話すAさんが立つキッチン。
聞いているのは僕ではなくてもいいみたい。
慣れた手つきのAさんの料理は、温かくて、
懐かしくて、だから余計に僕を傷付けるよ。
『雄也くん、もうじき出来るしね?』
「はい。あ、遥輝くんには、
ここに来ている事言って来てるんですか?」
『ううん。笑』
「え!?」
『遥輝はもう夢の中。笑』
「ヤバくないですか!?」
『何が?』
「僕も男ですよ?」
『あはは。笑』
ねぇ、お願い。
恋をして綺麗になってくAさんを、
見ているのは辛いからもうここへは来んといて。
でも、言えへん。
それでも会いたいから…
Aさんが遥輝くんと喧嘩をして泣いた時、
僕はすかさず、Aさんの味方をしたけどAさんは、
『大丈夫。』
なんて言って、何度も涙を拭いてた。
僕やったら、
Aさんを悲しませたりせーへんのに…
今この瞬間をAさんといる事は、
嘘じゃないのに、何も変わらない、何も届かない。
きっとこれからも。
『たくさん作ったから、皆で食べて。』
「それならAさんも来たら?」
『来たいけど…』
「?」
『明日、和歌山に行くんだ!笑』
「和歌山って遥輝くんの実家?」
『うん。ジャーン!笑』
左手の薬指にハメられた指輪よりも、
それを嬉しそうに笑うAさんの笑顔よりも、
もうAさんがここへは来ないのかと思う方が悲しい。
「おめでとう。」
『ありがとう。笑 じゃあね。』
「…じゃあ。」
Aさんが去って行ったドアに向けて、
今まで言えなかった言葉を呟く。
「僕はあなたが好きでした。」
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作者名：haru | 作成日時：2020年12月22日 0時
