6 通告 ページ6
side 紫
「居った、崇裕っ、」
──来ると思った。
残業と休出重ねた甲斐あって晴れて水質検査をクリアし、有給消化日やった筈の淳太の声。
さっき電話で聞いたばっかやけど。
落ちかけの夕日が広い窓を照らす。似合わない慌てぶりで職員室のドアを開けた淳太が、俺の机を目指して一目散に突進してくる。
その道中、がらんどうの職員室に反響した自分自身のあまりの声量に我に返り、頬を紅潮させてく様子は中々おもろかった。
PCに張り付いたままの俺の表情に、そんな気持ちが滲み出とったみたいで淳太が苛立った声を出す。
「何笑てんねん、」
「別に。何？」
「何やあらへん、お前ほんまか？
校長に喧嘩売ったて」
「誰から聞いた？」
「誰でもええやろ！」
まあ校長直々に聞いたんやろな。
珍しく興奮した様子を隠せん淳太の姿とは対照的に、落ち着いてく自分の心。
まるで二人の間の感情のバランス取っとるように。
「小瀧のこと、
児相か警察に話すて、本気なん」
確認せんでも分かってる筈の淳太の方、黙ったまま一瞬向いたら。
般若みたいな顔になってんの確認して脱力感に襲われつつ、また向き直してキーボードを叩く。
納得せえよ。
急いでんの、こっちは。
「喧嘩やないで、別に」
「いや、校長かんかんやって。
水曜の職員会議で話合う言うたのに
濱田君に、待てへんので独断で動きます、
言われたて
水曜まで待てへんの？」
「職員会議で話合うたとこで
ほんなら通告しましょって
すぐなるわけないやん。
肝心の校長が事なかれ主義の塊やねんから」
「・・・お前、それでわざと言うたん？
職員会議の場でやなくて、校長に、直に」
「おぉ、耳には入れたんやから筋は通っとるやろ」
「崇裕、」
夕日の照返しが眩しい。
窓から視線を切っても、斜陽宛らぎらついた目線と目が合うだけ。
「睨むなや」
「ちょっとおかしいわお前
大分おかしい」
「は？」
「お前から聞いてまだ
俺やって整理つかへん位、
信じられへん位やのに
一人で抱えられる問題とちゃうで、こんな・・！」
電話口で話したこと。
小瀧か虐待を受けていることと
その心因反応。
自分で自分を殴る。
立派な自傷行為。
屋上の扉の鍵に付いた錆びた鎖を、
血が出るまで無意識に握り締める。
それも自傷行為やし
痛みに鈍くなる感覚鈍麻は
極度のストレッサーに起因する。
全部お前の専門分野。
全部、他の誰でもないお前に確認したことやろ。
この状況。
切迫、しとると思う。
そう自分やって言うてた癖に。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 375人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
まいん(プロフ) - Noさん» ありがとうございます。わざわざコメントまで書いていただいて恐縮です。すみません。そんなふうに言っていただけてこちらこそ本当に嬉しいです。ありがとうございます。 (2021年4月30日 22時) (
レス) id: 715f3175ec (このIDを非表示/違反報告)
まいん(プロフ) - かこさん» Oh…ありがとうございます(泣)こちらこそ早速ご覧いただき本当にありがとうございます。お待たせしてすみませんでした。 (2021年4月30日 22時) (レス) id: 715f3175ec (このIDを非表示/違反報告)
No(プロフ) - ずっと待ってました>_<本当に嬉しい限りです。 (2021年4月30日 18時) (レス) id: a928634097 (このIDを非表示/違反報告)
かこ(プロフ) - まいんさん» ずっと待ってました（ ; ; ）更新してくださって本当にありがとうございます！ (2021年4月30日 14時) (レス) id: 6e72dd3f11 (このIDを非表示/違反報告)
まいん(プロフ) - 名無しさん» お恥ずかしいです。もったいないご感想で恐縮です。そして嬉しいです。私の小説に対してなのか不安になってしまうほどです。何かの間違いでなければ、本当にありがとうございます。 (2021年4月30日 11時) (レス) id: 715f3175ec (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：まいん | 作成日時：2019年9月6日 19時
