5 鍵 ページ5
side 紫
直視すんのが堪える程赤く充血した目。
ほんまはこれ以上に涙を流させることなんてしたない。
「前も藤井に会いたない、とか言うてたやろ、
藤井も避けられてるとは思っとったと思うで
それで気まずい感じになっとったんちゃうん」
「・・っは、い・・」
「・・寂しかった思うで、
そんな態度取られたら」
「・・・っ・・、」
小瀧も思い当たるところはあるんやろう。
知られる前の、保健室でのことしかり、
知られた後、会いたなくて学校行かれへんかったことしかり。
藤井が心配しとるのもきっと一番分かってるはずや。
果たして涙の量を増やした小瀧に、
それでもわざわざ言葉にして伝えたのは、
自分の気持ちと向き合ってほしいから。
「お前がしんどいんも当たり前や、
でもなんでそこまでしんどいんか、
ほんまは気付いとるやろ、」
泣かれるのは、迷惑ではないよ。
気持ちのブレーキが緩まる、こっち側の事情。
「藤井に知られたんが
しんどいんよな、」
これを言うたら、小瀧はきっと自覚する。
それが分かっとって、ずっと言えへんかった。
分かっとったから、言えへんかった。
───ごめんな。
「藤井のことが好きやねんな、お前は」
小瀧の頭を、優しく手のひらで撫でると、手の重みで潰された長い前髪が、目にかかって光る涙に刺さる。
おかしいのはきっと俺の方。
こんなん言いたない、って助けを求めるような小瀧の涙を見て、思わず抱き寄せたあの日から。
──昔の俺と重ねてしまったあの時から。
泣き止めへん小瀧の肩越しの扉。
屋上を分厚く遮るドアには、比較的真新しい、立入禁止の文字が連なるプレートが下げてある。
丁度今の在校生の代から、安全性担保、生徒の非行防止を目的に閉鎖されたのがもったいないくらいの、屋上から見える景色を俺は、小瀧に見せてやりたかった。
フェンス越しの町並み、遮るものの何もない塔屋からの東の空、南の空、西の空のパノラマ。
一時の気休めにはきっとなるから、例えそれが小瀧の傷を癒すには足りんくても。
ポケットの中で鍵同士が擦れる音がする。
ほんまに深い意味がないなら。
教師として、他の生徒誰にでも見せてやりたいと思うなら、
いくらでも見せてやればええ。
そうやないから、この鍵を開けられへん。
まだ藤井への決定的な言葉を紡げへん小瀧に救われている俺には。
もどかしかった。
ずっと二人の距離が。
そして少しだけ
藤井が羨ましかった。
───
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まいん(プロフ) - Noさん» ありがとうございます。わざわざコメントまで書いていただいて恐縮です。すみません。そんなふうに言っていただけてこちらこそ本当に嬉しいです。ありがとうございます。 (2021年4月30日 22時) (
レス) id: 715f3175ec (このIDを非表示/違反報告)
まいん(プロフ) - かこさん» Oh…ありがとうございます(泣)こちらこそ早速ご覧いただき本当にありがとうございます。お待たせしてすみませんでした。 (2021年4月30日 22時) (レス) id: 715f3175ec (このIDを非表示/違反報告)
No(プロフ) - ずっと待ってました>_<本当に嬉しい限りです。 (2021年4月30日 18時) (レス) id: a928634097 (このIDを非表示/違反報告)
かこ(プロフ) - まいんさん» ずっと待ってました（ ; ; ）更新してくださって本当にありがとうございます！ (2021年4月30日 14時) (レス) id: 6e72dd3f11 (このIDを非表示/違反報告)
まいん(プロフ) - 名無しさん» お恥ずかしいです。もったいないご感想で恐縮です。そして嬉しいです。私の小説に対してなのか不安になってしまうほどです。何かの間違いでなければ、本当にありがとうございます。 (2021年4月30日 11時) (レス) id: 715f3175ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：まいん | 作成日時：2019年9月6日 19時
