「理解」でいいなら苦労しない【H×H】 (ページ3)

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　オレンジジュースに気をつけろ。この言葉の意味を知ったのは、キルアくんが去っていった数分後のことである。

「お嬢さん、ハンター試験は初めてだろう？」
「あ、はい」

　正直ハンター試験とはなんぞやと問いかけたかったけれど、ここがその試験の会場らしかったのでそこは口を噤んだ。もしここが会場でないのなら「会場を探しているのかい？」と聞くはずだから。すでにハンター試験を受ける前提で話が始まっているので間違いはないと思う。ナンバープレートの存在もこれで納得である。

「オレはトンパっつうんだ。オレはここのベテランだから、なんでも聞いてくれていいぜ」

　私も続いて名乗ろうとしたが、それよりも早く彼がカバンからあるものを取り出したため、私の口はまたも噤むことになる。トンパさんがカバンから取り出したもの。それは、缶のオレンジジュースだった。

「お近づきの印ってことで、これあげるよ」

　笑顔で差し出されるオレンジジュース。缶のラベルを見る限り、私の知っているオレンジジュースと同じものだ。その点に関しては安心できるのだが、別の点に関してはそうも行かない。耳の中で蘇る、キルアくんの声。『オレンジジュースに気をつけろ』。このことだ、と直感的に思った。

「いえ結構です。こういうときにあまり水分を摂りたくないので……」
「そういわずに。甘いものを摂取するだけで気分ってのはかなり変わるもんだ。ほら」

　トンパさんは缶を押し付けるように渡すと、もう一つ同じジュースを取り出して口を開けて飲みだした。

　呑気なものだなあ。試験っていうのだからそれなりに緊張すべきものではないのだろうか。筆記試験の直前にはお手洗いが近くなりやすい私からすると、ここまでグビグビと水分を摂ることができる人間は逆に尊敬してしまう。なんなら、水分の摂りすぎて下痢にでもなってしまうのではないかと心配してしまう。

「ほらお嬢さんも飲みなよ」
『オレンジジュースには気をつけろよ、A』

　優しい笑顔のトンパさん。善意でこういうことを言ってくれる人を疑うことはあまりしたくないのだけれど。

「……うう」

　もともとの自分の体質も相まってか、キルアくんの言葉を信じるほうに軍配が上がった。こんなお手洗いの場所もよくわからない見知らぬ場所で、苦しみたくない。

「やっぱりいいです、ごめんなさい。そういう気分じゃなくて」
「あっおいっ」

　地面に缶を置いてその場を立ち去る。トンパさんごめんね。